それは、偶然だったのか必然だったのか。
兄が無防備にも置いていった剣に気付いて、渡してこようと手にとったその瞬間だった。

パァッ!!

「!?」

触れた瞬間の光に、思わず剣から手を離して落としてしまいそうになる。
が、そうはならなかった。
意識以外の全てが止まったかのように身体は動かない。

―――こんなのはふざけてる。

誰か、見知らぬ少年の声が聴こえた。

「な…」

なに?と、声を発するより先に。
意識はあっさりと暗転した。




Fate/Actor was summoned - 召喚の夜 -



ゆっくりとゆっくりと、闇の中を落ちていく。
それはあくまで感覚の話だ。
実際は落ちていないのかもしれないし、落ちているのかもしれない。

頭の中に流れ込んでくるのは、不可思議な知識。
元の世界に酷似した世界の知識。
あるいは、元の世界と同じ世界なのかもしれない。
聖杯。
サーヴァント。
魔術師。
宝具。
戦争。
マスター。
水を飲むように、知識はあっさりと自分の中に飲み込まれた。
そこに不快感はない。
ただ、ありえないはずのその事象は、強引にもありえる事象として自身の中に登録されていくだけ。

ふ、と意識が上昇する。
なんだかわからないが、それが世界からの仕事なら受けてやろうじゃないか。

目を開けたその前には、赤毛の少年が座り込んでいた。

「問おうか―――」

声が、暗い部屋に響く。

「君が僕のマスターか?」
「貴方が私のマスターか?」

思いがけず、声が重なった。

声の聴こえた、自分の横に視線を向ける。
そこには、僕と同じように少し驚いたような色を浮かべたとても綺麗な少女騎士が立っていた。

「君は…―――いや、君も、彼に呼び出されたサーヴァント、ということで良いのかな。」

僕の言葉に、少年はえ、と声を漏らし、少女騎士はこくりと頷いた。

「どうやらそのようですね。では…」

と、僕と少女騎士は赤毛の少年に振り返る。

「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。―――ここに、契約は完了した。」
「同じく、サーヴァント・アクター、召喚に従い参上した。これより我が術は君と共にあり、君の運命は僕と共にある。ここに契約は完了した。よろしく頼むよ、マスター。」

最後ににこりと笑って、少年を助け起こす為に手を差し出した。
少年は戸惑っているのを隠すことなく―――あるいは、隠し事が苦手なのかもしれない―――僕の手をとる。

「えと…召喚、って…?痛っ…」

戸惑い気味に訊ねてきたマスターたる少年は、不意に手に走った痛みに顔を歪めた。
立ち上がり、自身の手の甲に現れた紋様に不思議そうな表情を浮かべる。

「それは私たちの契約の証。令呪と呼ばれる3つの絶対命令権です。…今回はイレギュラーで我々二人が貴方に召喚されたようですが…。」
「令呪自体は3つ分…ということは、僕たち二人で3つということか…。」

セイバーはふと部屋―――おそらく土蔵と呼ばれるものだろう―――から外へと視線を外す。
マスターたる少年を先ほどまで追い込んでいた、サーヴァントの気配。
セイバーは僕に視線をよこし、僕が頷いたのを見るとすぐさま外へと飛び出していった。
さすがは最優のサーヴァント。
感心しながらも僕もセイバーの後に続こうと土蔵を出かけたところで、マスターたる少年の声が掛かった。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!マスターとかサーヴァントとか、一体どういうことなんだよ!」

少年が狼狽した声を上げる。
先ほどからなんとなく感じてはいたのだが、これはもしかして。

「マスター、もしかして自分で召喚したのではなく、偶発的に僕たちを召喚した、とか…?」
「さっぱりわからないけど…状況的に言えば、多分…。」

どことなく自信なさげに答える少年。
ため息をついて、なるほど、と呟く。
道理でイレギュラーなことばかりだと思いかけて、そもそも自分がこの戦争に参加するということ自体が異常なんだったと思い出す。

「って、そうじゃなくて!あの女の子、さっきの青いヤツのとこに…!?」

ハッとした表情になった少年は制止の声をかけるより先に土蔵を飛び出していた。
あちゃあ、と自分が出遅れたことに顔をしかめながら、少年の後に続く。
次いで目にしたのは、命を賭けた戦いであるはずなのに、思わず見惚れてしまうほどの美しい剣技達だった。

ガッ!キィンッ!

甲高い剣戟の音。
槍と不可視の武器が対峙する。
あの細い少女のどこに、蒼い槍使いを圧倒するほどの力があるというのだろう?
槍使いが雷光だと言うのならば、セイバーたる少女は疾風。
素早い剣捌きはまるで力など入っていないかのようであるのに、その一撃一撃が重いと、槍と打ち合う剣戟の音でわかる。
言葉を交わしながらも剣を交えていた二人…セイバーと槍使いは、唐突に間合いを広げた。
なにか来る。
戦場を駆けてきた自身の勘がそう訴えてくる。
すなわちそれは、この戦争においては宝具での決戦。
であるならば、セイバーか槍使い…ランサーのどちらかが宝具を使うということか。
何事が起こっても対応できるように、マスターたる少年のすぐ傍に控える。
少年は戦いに魅入っていてこちらの気配に気付いた様子はない。

「よく言った、剣使い(セイバー)。ならばその心臓、貰い受ける。」

槍を構えたランサーの纏う魔力が急激に高まっていく。
セイバーは警戒を覚え、身構える。
ランサーは穂先を地面に向けるという異様な構えのまま、セイバーに向かって地を蹴った。
そうして、

「"―――刺し穿つ(ゲイ)"」

それ自体が強力な魔力を帯びる言葉と共に、

「"――――死棘の槍(ボルク)――――!"」

必殺の一撃が、放たれた。
それは最早攻防とは言えなかった。
セイバーの読んだ軌道、それを全く無視して、地面へと放たれたはずの穂先はセイバーの胸へと吸い込まれた。

「は…っ、く…!」

槍に貫かれ、夥しい血を流しながら、セイバーは立ち留まる。

「呪詛…いや、因果の逆転か…!」

呟くセイバーに、ランサーは険しい表情で口を開く。

「―――かわしたな、我が必殺の一撃(ゲイ・ボルク)を。」
「ッ!?ゲイ・ボルク…御身はアイルランドの光の御子か―――!」

驚愕の色も露に声を上げたセイバーに、ランサーは舌打ちして答える。

「―――チッ、有名すぎるのも考え物だな。うちのマスターは宝具を避けられたら帰って来いなんて言うんでな、ここは退かせてもらうぜ。」

ランサーは言うが早いか、踵を返す。

「待て!逃げるのか!!」
「あぁ、そうだよ。―――それに、どうやらイレギュラーな事態になってきたようだしな。」

ちらりと、少年の傍らに控えていた僕に視線を寄越して、ランサーは塀の向こうへと去って行った。
それを見送って、セイバーがこちらに歩み寄る。

「マスター、ご無事ですか。」
「あ、ああ…って、だからマスターって…。」

少年はセイバーの言葉に辟易とした様に肩を落とす。

「なんかわかんないけど、俺には衛宮士郎って名前があるんだ。マスターなんて呼ぶのはやめてくれ。」

そう言って顔を上げた少年は。
ひどく、心をすっきりとさせてくれる目をしていた。
どこかで同じ目を見たことがある。
この好感の持てる瞳と同じ目をした人物達に思い至って、思わず笑みが零れた。
セイバーも同じく好感を持ったようで、にこりと笑って頷いた。

「では、シロウと。ええ、私としてもこちらのほうが好ましい。」
「え、な…っ」

美少女の笑みを間近で見たからか、少年…もとい、士郎は顔を真っ赤に染め上げた。
純情だなあ、なんて内心思ってしまったのは仕方がないことだろう。

「まあ、詳しい話は…―――」

まとめようと言いかけて、僕とセイバーはぴくりと眉を上げて塀の外を見た。
士郎は気付いていないのか、訝しげに言葉を途中で止めた僕を見ている。

「―――お客さん、みたいだね。」
「え?」

僕の言葉に、士郎はきょとんと目を丸くする。
対してセイバーはこくりと頷いた。











元になる夢小説を書いていないのにこの設定で書いて良いのか迷った挙句萌えには勝てず書いてしまいました(長)
サモ1主人公の一人、藤矢の実弟設定な夢主人公でございます。
4、5年前に設定と大まかな話だけ考えて本編を書かないとかいう反則的に生まれた子だったのですが、こんなところで日の目を見るとは(笑)
案外今は普通ですが、ドロドロな昼メロ並の過去持ちだったりします。
いや、なんていうか、そういうの書きたい時だってあったんですよ。
ちなみにこの主人公、サモ1より数年前に召喚→色々あって蒼の派閥の召喚師に→サモ2→時間移動でサモ3→サモ3番外を経験してます。