ええーと、こんにちはこんばんは、もしかしたらおはようございます? いかがお過ごしでしょうか。 俺はすこぶる元気です。ええ、身体的には。 突然だけど、ここで俺についていくつか話そうと思う。 俺は今年で22歳になる大学生だった。 両親は健在だったが、大学に通う為に一人暮らしをしていて、バイトとかもやっていた。 現に、ついさっきまでバイトをして、…そう、その帰り道でうっかり石か何かに躓いて水溜りにダイブしたのだ。そりゃもう、盛大に。 救いと言えば、夜だったので辺りに人が居なかったことくらいか。 ともあれ、内心自分に呆れながら恥ずかしさをこらえて水溜りから顔を上げて起き上がったのだが…――― 「…ここ、何処だ…?」 目の前には、全く見覚えのない光景が広がっていたのだった。 《 転んだら少年になっていた 》 ぽかん、と思わず口をあけて呆然としていたのだが、ふと妙な違和感に気付いて目元に手を伸ばした。 自然、俺の視線は下がり、先ほどまで突っ込んでいた水溜りを鏡代わりに覗き込む。 どこかうす暗い視界に、てっきり夜だからだとばかり思っていたのだが違ったらしい。 目元には、なぜか、両目を覆う目隠しがされていたのだ。 何か特殊な素材なのか、こちらからは見えるが外からは見えない。…車の窓と同じようなものか?多分。 (でも、何故こんなものが?) 疑問に思って、目隠しの結び目を解く。 ズキン! 「っ…?」 頭の中で光が弾けるような感覚。 ズキン! しゅるりと解けた目隠しの下から、黒く長い前髪と目隠しによって隠されていた、綺麗に整った『少年』の顔と、透き通ったエメラルドグリーンの双眸が露になった。 「は…?」 痛みを主張する頭に手をやって、目を見開いて水溜りを凝視する。 何度目を瞬いてみても、そこにあるのは『俺』とは別人の、やたら綺麗な少年の顔だけだ。 (誰だよ、これ…) ズキンッ! 「っ痛…!」 殊更痛んだ頭に思わず両目を瞑ると、フラッシュバックする、光景。 母親。死。男の手。笑い声。危機感。恐れ。言葉。いなくなれ。 男は自分で自分の首を絞めた。 苦しそうにもがく男。憎しみ。恐怖。みていたくない。 みていたくないみていたくないみていたくない! ―――男は、ナイフで自分の心臓を突き刺した。 「…ッッ!!?」 どくんどくんどくんっ! 頭が痛い心臓が痛い涙が出そうだ。 (なんだこれなんだこれなんだこれ…ッ!!) 流れ込むもの…これは、記憶―――? 痛みに耐えるようにひたすら頭を抱えてその場に蹲る。 記憶の奔流が終わった頃には、俺は二つの記憶を認識していた。 「は…はは…。」 しばらく呆然としていた俺は、乾いた笑いを零した。 (冗談だろう?) 誰にともなく呟く。 この少年―――彼の意識は感じない。よって、認識するのも非常に嫌だが、今となっては彼は俺なのだ―――の名前は・。 御年14歳(『俺』とは8歳差になる)で、両親はなし(母は数年前に死亡、父は不明らしい)。 両親が居ない状態で、このようなスラムで生活するのはとても大変だろう。 だが、俺が思わず乾いた笑いをあげたのは、それらのせいではない。 ―――魔晄、神羅…英雄セフィロス。 非常に聞き覚えのある単語だ。少なくとも俺には。 小さい頃に流行したゲームの中の単語、である。 最近はその続編的な位置付けとして、映像モノやらアクションモノなども発売していた。 俺もまた例に漏れず、そのゲームに熱中した。 まだ小さかった俺にはイマイチわかりにくいストーリー部分もあったのだが、何かに引き寄せられるかのようにゲームをプレイしたものだ。 …話がズレた。 つまるところ問題は、『少年』にとって、その単語は架空のものなどではなく。 『現実』のものとしての記憶だと、言うことだ。 (冗談だろう?) 再び心の中で、誰にともなく呟く。 最悪なのが『少年』が、既に神羅の士官学校入学が内定してしまっていることだろう。 スラムで生きていくのも辛いが、だからって、よりによって、なんで神羅…! しかも時期的に、本編すら始まっていない。 だって、ごく最近の記憶の中に丁度街を歩いているザックスの姿があったのだから。(おそらくエアリスにでも会いに行っているのだろう) はぁ、と重いため息を吐いて、上を見上げれば―――某人曰くの、腐ったピザ、が目に入った。 (ああもう本当に―――) ―――俺に一体、どうしろって言うんだ。 転んだだけなのに何故か知らない美少年に憑依しちゃったよ、なお話。 憑依者じゃなくて少年のほうが妙な特殊能力持ちです。 |