―――あれから数日。 ショッキングな事態に、呆けてみたり現実逃避してみたりしていた俺だが、どうも元の『俺』に戻る事も出来なさそうだと、なーんとなく理解してきたので、仕方なく『少年』こと、・として生活していた。 《 初遭遇と騒動 》 少年が目隠しをしていたのは、どうも一種のトラウマと目立つの防止という二つの理由があったから…っぽい。 トラウマは言うに及ばず、例の奇妙な自殺をした男のことだ。 あんなものを目の前で見たのだ。トラウマにならないほうがおかしい。 記憶を受け継ぐような形で今の俺が居る為、目隠しを外そうとするとあの頭痛やら何やらが一時的とは言え出てきてしまうので、俺の精神衛生を考えて仕方なく常時目隠しをつけたまま生活している。 もうひとつの理由である「目立つの防止」…だが。 やたら綺麗な顔立ちのこの顔のせいで集める視線はなくなったものの、今度は常時目隠しをしている変人として見られてしまっている。 どっちもどっちだが、身の危険を感じない分、変人として見られているほうがまだマシだろう、うん。 綺麗なら男でも良いとかいう奴は、俺が思っていた以上に多かったので。うん、男性不信になりそうだ。 ともあれ、来て欲しかったような欲しくなかったような、神羅の士官学校への入学式が明日へと迫っていた。 そういえば…クラウドは既に入学しているのだろうか? ゲームをしていたのはもう10数年前なので、生憎と日付やら年号やらは覚えていない。そもそも、あのゲームって日付とか出てたっけ? うろ覚えながらも、確か14歳だか16歳だかに何かがあったはずなので、多分14歳に入学なんだろう。 ということはクラウドが16歳になってたら今年あの事件が起こるってことだよなあ。 まあ、今はそれよりも自分の心配をしなくては。 幸いにして『少年』の記憶があるので日常生活で困ることはない。 (うーん、これって、俺が少年を乗っ取ったってことか?それとも殺してしまったってことなんだろうか…。) 余り深く考えると鬱に入りそうな気がするので、考えるのを止めておく。 だってもう、こうなってしまったものは仕方ないし。 ゲームの中では、・なる人物は出ていなかった。 少なくとも、俺の記憶の中では。 というか目隠しとか奇抜な格好してたらいくらなんでも憶えてるだろう。 まぁともかく、俺の記憶の中に居ないってことは、本編時代で生死不明というわけだ。 俺の行動如何によっては色々なことに巻き込まれて死んでしまうということ。 どうせならもっと安全な地位に居たかった…。 心の中でホロリとしてみてもどうしようもない。 とりあえず、仕官学校でテキトーに資格とか取ったらさっさとミッドガルからとんずらして安全な村とか街とかに逃げよう。うん。 この世界に安全な場所なんてあるのか?とか聞いたらいけない。 兵士として組み込まれなきゃ、逃げてもとりあえずは大丈夫…だと良いなぁ。 理想は、卒業後そのままフリー、これがベスト。 仕官学校なんざ通ったこともないからなぁ、向こうの出方待ちになってしまうのは…仕方のないことだ。 「うー…めんどいなぁ…。」 俺としてはそこそこ楽しく平和に暮らせればそれで良いのだ。 それがこの世界で実現するにはちょーっとばかり無理があることが問題なのだが。 はふー、と大きく息を吐いて、俺は使っていたノートパソコンを閉じた。 ―――そうそう。 『少年』こと・は、どうやら情報屋をしていたらしい。 評判はそこそこ好評。姿を現すことがないことから、影を表すシャドウやら無を意味するゼロやらという呼び名が付けられている。 専ら少年が自分で名乗る名前は"ゼロ"だが。 コンピュータなど、せいぜいパソコンでネットやるくらいしか知らない俺だが、ここでも少年の知識が幸いして情報屋としても動けることがわかった。 しかし何かで失敗してはアレなので、余り難しいものには手をつけていないが…。 この辺は要練習というか、慣れだろう。今後に期待というヤツだ。 ちらりと壁に目をやれば、夜も過ぎて深夜になる頃だった。 明日は入学式で上へ行かなければならないから早めに寝ようと思っていたのに、すっかりパソコンに没頭してしまった。俺はニートか。 「ふぁ…。」 思わずあくびをして頭を振り、もう寝ようとベッドに潜り込む。 さすが成長期と言ったところか、すぐに眠気が襲ってきて、俺は睡魔に逆らうことなく意識を手放した。 翌日、俺は神羅の士官学校に居た。 この奇抜な姿(とは言え髪が少し長くて両目を覆う目隠しをしているだけだ)のためか、俺の周りには半径1mほどの空間が出来ている。 確かに俺だってこんな怪しい奴が居たら近付かないだろうけど、ちょっと寂しい。 別に取って食うわけじゃないんだから、もう少しくらいフレンドリーに接してくれてもいいんじゃないの? 表面上は無表情で、心の中でしくしくと嘆いていた俺は、ふと、俺の周りとは正反対に人が集まっている部分を見つけ、目を瞬かせた。 (なんだ?) 見ている限り、どうも好意的な雰囲気ではないようだ。 余り目立ちたくないが、周りの奴らも興味深そうに見ているし、教官が来るのだって多分もうちょっと先だし、いいだろ。 ちょっと近付いて見てみると、案の定、柄の良ろしくなさそうな奴らが、同じ新入生に絡んでいる姿…が。 「…ッ!?」 ぎょっとして、思わず声を上げそうになって咄嗟に口を噤む。 目に入ったのは、綺麗なハニーブロンド。利発そうな、勝気に光る琥珀の瞳。 その顔は、知っているものより幼いけれど、確かに知っている顔だった。 (クラウド…!?) そっかー、クラウドは魔晄浴びる前は目は琥珀色だったのかー。ラストオーダーだと青い緑だったからてっきりその色かと…あれ?ってことはあの時点で魔晄受けてたってこと?ん?なんかおかしいな…? なんて思わず現実逃避をしかけて、けれど、クラウドに絡んでいた奴が怒鳴りだしたことで仕方なく視線を戻した。 相変わらずのクールっぷりというかなんというか…で、火に油を注ぎまくるクラウド。 お前、対人関係大丈夫なのか…?とこちらが心配な気持ちになってくる。 と、周りとは違った色の視線に気付いて、俺は顔を上げ、固まった。 三階の吹き抜けの先に、彼らは、居た。 (おいおいおい…マジかよ?) 見た目に豪華な、特徴的な銀色の髪、鮮烈な蒼の目、黒い服、白い肌、羨ましくなる長身。 一見粗野に見えそうな、硬質そうな黒髪に蒼の瞳、人懐こそうな笑みが、今はどこか面白そうに輝いていた。 言わずともわかるだろう…―――セフィロスと、ザックスだ。 クラウドとの接触って、こんなに早かったのか? そう思った俺だが、その割には二人はただ興味深そうに(主にザックスが)騒ぎを見ているだけで、介入する様子はない。 ついでに、俺以外に二人に気付いている奴も居ないようだった。 (…これって、もしかしてまずいんじゃねーの?) (一応)上官の目の前だし(例え二人が面白がってても)これから式だってのに、こんな騒ぎを起こしてて教官に見つかったら…――― 一向に収まる気配のない騒ぎに、クラウドに絡んでいた奴が腕を振り上げ――― (ああもうっ) 騒ぎに混じれば余計に目立つのはわかっている。 わかってはいるのだ、が! 俺の伸ばした手が、クラウドを殴り飛ばそうとしていた男の腕を掴む。 だからって、一方的とは言え知っている顔が入学早々こんなことで教官らに目を付けられるのを見過ごせるほど、俺の神経は図太くなかったのだ。 「なんだテメェ!」 「部外者が出てくるんじゃねぇよ!」 口々に囃したてる奴らと、少し驚いたように目を見張るクラウド。 「こいつは俺の知り合いでな、生憎と部外者には当てはまらないな。」 「は!?」 俺の言葉にクラウドはぎょっとしたような声を上げる。 アホ、もう少し合わせるってことを憶えろ。 俺はそう思ったのだが、絡んでいた奴らは特に何も気付かなかったようで、激昂の表情を浮かべた。 ―――正直に言おう。 この時俺の心の中を占めていたものは、苛立ちでも恐れでもなく、ただただ「面倒だな」ということだった。 ―――ので、投げてみた。 「いいのか?アコガレの神羅の英雄、サー・セフィロスが見ている中で乱闘騒ぎなんて起こして。」 「なにっ!?」 俺の言葉に、周りの奴ら全員が驚愕の声を上げた。 本当に皆気付いてなかったのか…? ちらりと上を見やれば、きょとんとするザックスと、話を振られて仕方なしにこちらに視線を向けたセフィロスの姿があった。 ザックスがきょとんとしていたのは一瞬で、すぐにそれは爆笑に変わった。 「ぶっはっはっはっはっは!!」 ザックスの爆笑に、それまで二人に気付いていなかったらしい周りの連中がようやく上を見上げる。 「お、お前サイコー…!」 「…それは、どうも。」 ひー!と目尻に涙を浮かべながら俺に言ってきたザックスに、とりあえず当たり障りのない答えを返す。 と、一体何がツボにハマったのか、さらに爆笑するザックス。 さすがに戸惑っていると、静かにこちらを見ていたセフィロスが口を開いた。 「…お前達、不要な騒ぎを起こすな。」 「は、はいっ!」 「す、すみませんっ!!」 クラウドに絡んで来ていた奴らとクラウドが慌てて頭を下げる。 俺はそのままセフィロス達を見上げていたが、ふと、セフィロスがこちらを捕らえて、続けた言葉に絶句した。 「それから、そこの眼帯と金髪の。詳しい話を聞くからこっちに上がって来い。」 「………!?」 「ぅげ…。」 驚愕に目を見開くクラウドと、小声でげんなりした声を上げる俺。 (目立ちたくなかったのになぁ…。) 俺は小さくため息をつくと、クラウドの腕を引っ張って答えた。 「りょーかいしました。ただちに向かいますので少々お待ち下さい、サー・セフィロス。」 主人公は面倒事は嫌いですがお人よしなのでついつい騒動に巻き込まれます。 |