《 学園にて・1 》



アッシュフォードに通うことになった。

なんでも、母が申請してくれていたらしい。
悠々自適生活に待ったが掛かってリリーシェは少しばかり不機嫌だった。表には出さないが。
貴族かつ、例のオレンジ事件主犯の妹、ということもあり恐縮する教師の後をついてあるくと、どうやらそこが教室のようだった。
学生らしいざわめきに、首都に居た頃以外は家庭教師ばかりで育った今世では懐かしいな、なんて思ってしまう。

そうして、教室の中へ入ると何故かしん、と静かになったのがわかった。

がたん!

そんな中、後ろのほうの席に座っていた生徒が急に立ち上がった音がやけに響いて、リリーシェは自然とそちらへと視線を向けて、目を見開いた。
同じように目を見開いて口をパクパクさせた、立ち上がった―――綺麗な顔立ちに黒髪、そしてなにより純紫の瞳の持ち主と、ほぼ同時に、リリーシェは声を上げていた。

「リリ…!?」
「ルル…っ!?」

え。なにこれなにごと!?
と、二人は頭の中が真っ白になってお互いを見つめていた。
二人の声が響いた教室は一拍の後、どういう関係だ!?とざわめいていたが。









銀糸の髪はさらさらと光に透けて、見覚えのある顔立ちよりも大人びた美しい少女の姿に、ルルーシュは我を忘れて思わず立ち上がっていた。
少女の澄んだシトリンの瞳がルルーシュを捉えて大きく見開かれる。

「リリ…!?」
「ルル…っ!?」

音が似ているね、なんて笑いあった遠い昔の記憶が、ルルーシュの脳裏によぎった。









「ランペルージ、知り合いなのか?」
「え、あ、…はい。」
「本国に居た頃の、友達なんです。ここに通っているって知らなくて…すみません、お騒がせしてしまって。」

殊勝にすまなそうに謝る美少女の姿に、教室中の面々はほう、とため息をつき、ルルーシュは誰だこいつ、とか脳内で思っていた。
それはそうだ。ルルーシュの知っているリリーシェという生き物は「オジョウサマ」でもなんでもなくて、外見は確かに綺麗で可愛い女の子だったけれど中身がそこらの男の子よりも男らしく、喋り方も男らしかったのだ。
まぁ貴族の娘だから猫被りくらいはするよな、としぶしぶ自分を納得させる。これで二人きりになってもあの喋り方されたら気持ち悪いことこの上ないのだが。









ひとまず一時限目が終わり。
教室中の好奇心満載な視線から逃れるように、二人は屋上へと上っていた。
ぱたん、と扉を閉めて、二人ではぁー、と深い息をつく。

「一体いつこっちへ?」
「つい昨日だ。」
「というかなんだあの喋り方は。」
「外面だけは良くしておけばそれなりに周りが上手く解釈してくれるからな。っつーか、ルル?お前は俺に対して何か言うことがあるよな?」

笑顔なのに怖いオーラを出してくれる見た目美少女に、ルルーシュはしら、と視線を逸らした。
それを見て、リリーシェははぁ、とため息をつく。

「…まぁ、お前が俺に連絡してこなかったって、理由は大体わかるけどさ…。…そういえばナナリーちゃんは?」
「最後に教えた時と同じだ。目も見えないし、足も…。」
「そか…。でも、さ。」
「ん?」

俯かせていた顔を上げたルルーシュの目に飛び込んできたのは、嬉しそうに微笑むリリーシェの姿だった。

「生きててくれて、嬉しい。」

そんな、安堵と、嬉しさと、ただただ純粋な祝福の声色に、ルルーシュはしばし、時間を止めた。
ああほんとうに。

「ルル?」

昔から、この相手にだけは勝てない。

「…ああ、ありがとう。」
「ふぇ?」

同じように、嬉しそうに珍しく心からの笑みとわかる笑みで答えたルルーシュに、リリーシェはびっくりしたように目を見開いて、それから少し頬を赤らめてふい、と視線を逸らした。
明らかに照れているとわかる仕草に、ルルーシュはくつくつと笑みを零す。

美人の笑顔は心臓に悪いというおはなし。











ルルは天然たらしですが、夢主も無自覚天然たらしです。
しかし性別が女の子のせいで男ばっかりたらしてますが全く気付いてません。
ルルがデレてるのに気付かないとかある意味凄い。