《 学園にて・2 》



ひとしきり色々な話をして、リリーシェはふと、とある推測に行き着いた。
というか、ルルーシュの正体を知っている人間ならば、行き着くかもしれない憶測だろう、とは思うものの。

「なあ、ルル?」
「なんだ?」
「ゼロってもしかしてお前か?」
「げほっ、っけほ…!な、ななななん…!?」
「ああ、お前なのか。なるほどなー。」

とっても狼狽してくれたルルーシュに、リリーシェはあー、なるほど、なんて生暖かい気持ちになって頷いた。
訳知り顔で頷くリリーシェに、ルルーシュはいざとなればギアスを、と思いながらリリーシェに訊ねる。

「…何故気付いた?」
「何故って…、そんなもんちょっと考えればわかるだろ。だって、お前だぞ?ルルだぞ?」
「いや、だから何故…」
「俺はお前が家族大好き人間だってのを知ってるし、シャルル皇帝のお前達に対する処置も知ってる。で、そこへ来て日本での開戦に植民地だ。そんでお前が死なないで生き延びてアッシュフォードにかくまわれる形で居る、ってことはお前がゼロ以外ありえない。」

その、色々重要な情報が抜けているような気がしてならない結論に、ルルーシュは大きく息をついた。
この相手はいつもそうだ。なんでこう一般常識外で素っ頓狂な理論で本質を見つけるんだろうか。

「まあでも、お前のお陰で枢木スザクも生き延びたし、うちの馬鹿兄貴も無実の罪知ってて犯人にして殺しちゃうなんてことしないで済んだから俺としてはありがとう、って感じだけどな。」
「…っはぁ!?」

思わぬ言葉にルルーシュは素っ頓狂な声を上げてしまう。
リリーシェはというと、ルルーシュのその反応を意外そうに見ていた。

「それにうちの評判落ちたせいで俺に対する見合い話が激減した!これは素晴らしい快挙だぞルル。褒めてつかわそう。」
「嬉しくない…。というかお前、それが一番重要視してるところなんじゃないか…?」

なんだかもう疲れた…といわんばかりのルルーシュに、リリーシェは怪訝そうに首をかしげた。
外見だけ見ていると様になりすぎていて中身を知っているルルーシュとしては逆に怖い。

「それ以外に何があるんだ?別にうちの評判が悪くなっても領地内には影響ないみたいだし、馬鹿兄貴も降格処分食らうくらいだろ。別に軍を退職してくれても問題ないしな。」
「リリ…。」
「うん?」
「…俺がゼロだって知って、どうするつもりだ?」

先ほどまでの疲れきった様子とは違うルルーシュに、リリーシェは「別に」と答えた。

「別に、って…。」
「だってゼロってえーと弱者の味方?なんだろ。理不尽に人を殺すわけでもなし、むしろ良いことしてるんだからいいんじゃねーの?」
「良いことって…。」
「だってお前がほしいのはナナリーちゃんと安心して暮らしたい場所だろ。その為にはまず日本からブリタニアを排除するのが第一段階だ。指揮官がお前なら無茶なことはしないだろうしな。」

だろ、なんて疑問でなく確認で聞いてくる相手に、ルルーシュは天を仰いだ。

「…本当に、お前にはかなわない。」
「何言ってんだ、俺お前にチェスで負け越してるっつーのに…。」
「そういう意味じゃない。…いいさ、邪魔はしないんだな?」
「俺に被害がなくて、かつお前が理不尽な行動に出ない限りはな?ああ、戦闘中のうちの兄貴とかそのへんに対する被害はまぁ…死なないでくれればいいけどどの道武器を手にした以上は死ぬ覚悟があって出てるってことだからそのへんは俺の条件の限りではないけどな。」
「…お前本当にシビアだな。お前を妹に持ったヤツを俺は同情するぞ…。」

ちなみにその兄貴はルルーシュがオレンジ疑惑を放ってくれたジェレミアですけど。

「それで、本当に誰にも言わないし、邪魔もしないんだな?」
「なんなら誓いでも立てるか?」

くす、とリリーシェは笑って、ルルーシュの瞳を見た。

「俺は俺に誓って、お前がゼロだと言わないし、お前が俺の邪魔をしない限りは邪魔をしない。俺は俺に誓ってお前の味方であることを誓おう。」

ルルーシュは、その誓いの対象がリリーシェ自身である時のリリーシェが紛れもなく真剣だということを知っている。
だから、数年ぶりの再会でそこまで信頼されていることに戸惑いもあったが、それは心地よい感情で持って、頷いた。

「…で、どのくらいで日本掌握予定なんだ?」
「年内には必ず、といったところだな。コーネリアとシュナイゼルの動きで多少誤差はあるだろうが。」
「ふうん…。よし、ルル、俺も手伝ってやろう。」
「ほぇあっ!?な、何を言ってるのかわかってるのかリリ!?」

心底驚いたように目を見開くルルーシュに、リリーシェは至って普通に頷く。

「白兵戦は力の関係上無茶だけど、それ以外なら自信あるぜ?」
「だが…、」
「だってさー、こんなの早く終わらせて安心したいだろ。俺だけ蚊帳の外で、お前が戦ってるの知ってて平穏に暮らせってそれは無理がある。」
「だが、もしバレればお前の家も何もかも失うことになるんだぞ…。」
「家がなくても生きていける程度には人脈も仕事も作ってきたつもりだ。両親には申し訳ないけどな。」

巻き込んで良いのか?この幼馴染を。

「…今なら、」

今ならまだ。

「今ならまだ、踏みとどまれる。俺はお前に俺がゼロだと忘れさせることが出来る。」
「…は?…いや、えーと、何、俺の頭に衝撃を与えるとかそれ系?」

きょとん、とルルーシュを見てくるリリーシェに、茶化すな、とルルーシュは言って、意識してギアスの瞳を発動させる。
その赤い瞳を見て、リリーシェは驚いたように目を丸くした。
危機感のない様子に、ルルーシュはどうしてこいつはこうなんだ、と苛立たしく思う。

「紫も綺麗だけど、…赤いのも、綺麗だな。」
「ほぇあ!?お、おおおおお前はまたいきなり何を!?」

そ、とルルーシュの頬に手を添えてじ、と瞳を覗き込んだリリーシェに、ルルーシュは目を見開いて頬を赤らめた。

「なるほど邪気眼か。ええとつまり、その眼?でルルは俺の記憶を操れるのか?」
「は?いや、え?」

あっさりと瞳の異常を受け入れられて、ルルーシュは思考停止してしまう。
興味深げにルルーシュの赤い瞳を見つめるリリーシェは、へぇ、なんて感心したように呟いている。

「赤の虹彩に変わった模様が見えるな、写輪眼みたいなものか…?眼に異常として出たってことは、発動条件は視界に収めたもの?」
「え、あ、いや、それは…、」
「これを発動することにリスクはないのか?例えばえーと、寿命が削られるとか、後で不幸になるだとか。」

興味深々と見つめてくるリリーシェの勢いに、ルルーシュは大人しくギアスを発動させるのを諦めた。
ひとつ瞬きをしたら元の純紫に戻ってしまった瞳に、リリーシェはちぇ、と不満を顔に表した。

「お、前は一体なんなんだ…。」
「リリーシェ・ゴットバルトですけど?」
「それは知ってる!」

思わず突っ込んで、ルルーシュは疲れたようにため息をついた。
なんでこいつっていつもこんなにマイペースなんだろう、なんて途方にくれそうになる。

「じゃきがん、とか、しゃりんがん、っていうのは?」
「ああ、まぁ創作ネタでよく見かけるいわゆる厨二病とも言うチートな感じのアレだ。」
「どれだ。」

真面目に意味わからん、と顔に描いてあったルルーシュに、リリーシェはなんだか自分がとっても汚れているような気分になって、そっとルルーシュの肩に手を当てるとやるせない表情で呟いた。

「…うん、ルルはずっとそのままでいてくれ。」
「はぁ?意味がわからないぞリリ。」
「まぁ要するに、人智を超えた不思議な力を行使することが出来るみたいな。大抵こういうのは後で痛い目を見ることになったり、発動のリスクが付きまとうものだけどな。」

リリーシェの言葉に、ルルーシュは思案深げに眉を顰めた。
リスク。
確かに『王の力はお前を孤独にする』とは聞いたが、それ以外のことは何も知らない。
あの魔女のことだ、尋ねたところで何も言わないだろうが…。

「お前はコレを知っているのか?」
「へ?いや、初めて見るけど。言っただろ、創作ネタでよくあるって。で、で?どうやって手に入れたんだこれ?」
「…お前もほしいのか?」
「いや全くいらん。そんなもん持ってたら騒ぎの渦中に引き込まれること間違いなさそうだし持ってるヤツ見てるほうがいいわ。」
「リリ…お前って本当になんというか…ひとでなしだな。」
「ちょ、言うに事欠いてそれはなくない?現実主義者と言い給え。もしくは保守主義者?」
「しかも自分限定だな。」
「てかそうか、ソレでうちの兄貴になんかしたんだな。」

そう考えれば、あの突然の豹変ぶりもわかるものである。
納得するリリーシェに、ルルーシュはもう何に驚けばいいのかわからなくなっていた。

「あれ、でも記憶をいじるんならなんでうちの兄貴はあんなに否認してんだ…?」
「別に、あの時のアレは記憶をいじったわけじゃない…。」
「え?そうなのか?ってことは、記憶をいじる能力、ってんじゃないのか。」
「…はぁ、まぁここまで知ってしまったんだからもう変わりないか…。俺の持つ力は『ギアス』というらしい。能力は一人につき一度だけ、どんな命令でも従わせる絶対遵守の力だ。」
「おお、まさにチート。チートの王様っぽい感じだ。でも一応一人に一度だけって条件はあるのか。」

おぉー、なんて言ってるリリーシェに、ルルーシュはどっと疲れがくるのを認めざるを得なかった。
なんでこいつはこんな異常を普通に受け入れられるんだろうか。











夢主は異世界転生とかいうワケワカラン事態を経験済みなので、あんまり驚きません。
そもそもナイトメアがある時点でどんなファンタジーが来ても大丈夫な心意気。