《 学園にて・3 》
「あのあのっ!リリーシェさんってルルとはどういう関係なの!?」 休み時間。 シャーリー、というらしい健康的な美少女が勢い込んで尋ねてきた言葉に、リリーシェは思わず苦笑を禁じえなかった。 「どういう関係って…、ルルと離れたのはもう7年も昔だし、時々遊ぶお友達って感じでしたよ。」 「え?7年も??」 「ええ、私は母様の都合で兄と一緒に首都に住んでいただけだったので、出逢って1年くらいで父様の住む家に戻らなくてはならなくなって、それっきりですね。」 リリーシェの言葉を聴いて、シャーリーはあからさまにほっとしたようだった。 その様子を見て表ではにこにこ微笑みながら、しかし中ではモテるな畜生ルルめ、なんてリリーシェは思ってたりする。 「シャーリーさんは…」 「あ!私のこと、シャーリーでいいよ!」 「そうですか?じゃあ、私のこともリリーシェって呼んでください。」 「うん!あと敬語とかじゃなくて、普通に喋ってくれると嬉しい、なぁ。」 なんて、おずおず美少女に言われてしまって断るなんてのは男が廃るってもんです。今は女だけどな! まさかルルと喋る時の完全な素に戻るわけにもいかず、リリーシェは無難に「女の子らしい」普通の話し方にすることにした。 「…うん、じゃあ、よろしくね、シャーリー。」 「よろしく!えへへ、リリーシェは入る部活とかは決めたの?」 「ううん、まだどういう部活があるのかわからないし…でも、ええと、必ず所属しなくちゃいけないんだよね?」 「そうみたい。」 「シャーリーは何に所属してるの?」 「私?私は水泳部と、あと生徒会を掛け持ちしてるの。」 水泳部はわかるとして。 「生徒会?」 「うん、このクラスだと私とルル、それに今ルルと喋ってる青い髪のリヴァルと、あそこに居る赤い髪のカレンさんが生徒会のメンバーなの。」 「へえ…なんだか楽しそうね。」 何より美人が多そうだ。 美人は世界の宝、というのが信条のリリーシェとしてはかなり気になる。 ちなみにその美人の筆頭はルルーシュだったりする。 この世界に生まれて17年、リリーシェはルルーシュ以上の美人を未だに見たことがない。 …ちなみにこのリリーシェ、自分の顔立ちがそれなりに整っている、というのは自覚があるのだが、他からみて滅多に見れないほどの美少女だなんていうことには全く気付いていないのだった。 「…で。」 「ん?」 リリーシェは目の前でどうした?と言わんばかりに見てくるルルーシュをじと、とした目で見上げた。 昔は同じくらいだったというのに今ではルルーシュのほうが身長が高いのである。くやしい。 ルルーシュは、ああ、と思い当たったようで口を開く。 「教室でシャーリーと話してただろう。」 「ルル、私はその展開の速さにつっこめばいいのか、それとも私の意見をまる無視したルルに怒ればいいのかどっちかな?」 「…生徒会に興味があるなら会長に会わせておいたほうが早いと思ってな。」 リリーシェがにこ、と外見上はかわいらしく、けれどルルーシュから見れば若干の怒りの感情を混ぜた笑みを浮かべれば、ルルーシュはさりげなく視線を逸らしてそう答えた。 「まぁいいけど。」 「あれ?ルルーシュ、と…、」 「「?」」 リリーシェがため息をついたところで、二人の背後から聞いたことのある声が掛けられた。 それに二人が振り返ると、そこには授業時間には見かけなかった人物が立っていた。 「スザク!軍の仕事は今日はもう良いのか?」 「え、あ、うん、それで生徒会だけでも、って思って来てみたんだけど…。」 ルルーシュの何処か嬉しそうな声に、スザクは戸惑ったように答えつつ、リリーシェをじっと見ていた。 その視線に気付いたルルーシュが怪訝そうに首を傾げ、リリーシェを見る。 「リリ、知り合いだったのか?」 「つい昨日ね。こんにちは、スザクさん。今日から私もこの学園に通うことになったんです。よろしくね。」 「は、はい、よろしくお願いします。えっと、昨日はその、」 「ルルの事情はわかっているつもりだから、気にしないで。」 「…おいリリ、お前もしかしてこの学園に居る間中ずっとそのキャラで通すつもりか。」 なんだか若干引いたように言うルルーシュに、スザクはきょとんとしてルルーシュを見て、リリーシェはにっこりと微笑む。 「処世術と言って頂戴。ルルとか兄様相手の時ぐらいなんだからね、あれは。」 「そうなのか…。」 なんだか親密そうなやり取りに、スザクが二人を見比べるのを見て、リリーシェは悪戯っぽい笑みに変えて問う。 「それともルルは、こんな私は嫌い?」 「は?馬鹿か、そんなことあるはずがないだろう。」 ルルーシュはリリーシェの言葉に特に何も考えることなく、何も気付くことなく何を当たり前のことを、と言わんばかりに呆れたように答えた。 「えっ!ええ!?」 「?どうしたんだスザク、急に声を上げたりして。」 びっくりしたように声を上げたスザクに、ルルーシュは怪訝そうに彼を見る。 「えっと、ルルーシュ、君、リリーシェ様と…その、付き合ってるの?」 「…は?」 リリーシェの予想通り過ぎる二人の反応に、リリーシェは明後日の方向を見て笑いを堪えていた。 「どうして俺がリリと付き合ってるとかいう結論にいくんだお前は?大体、今日7年ぶりに再会したばかりだぞ?」 「う、え、でも、なんだかルルーシュにしてはずいぶん親密っていうか、仲良いなぁっていうか…それに僕、君が愛称で呼んでる子なんて初めて見たし。」 「まぁ、リリは俺が初めて外で友達になった奴だしな…。というか俺達の関係は友達でいいのか…?」 「うーん。…カテゴリ的には問題ないんじゃないか、と。なんだろう、似たようなものを持つ者同士っていうか…妙な連帯感があるというか…。共有感?」 ううん、上手く言葉が出てこない、と唸るリリーシェに、ルルーシュもまた首を傾げる。 「良い言葉が浮かばないな。とりあえず友人ということにしておいてくれ。」 「う、うん、わかった。」 「あ、そうだ。スザクさん、私ここではただの生徒なので敬語とか、あと名前にさんとかつけなくて良いですよ。」 「え!?いや、しかし…。」 「あ、でも兄様の耳に入りそうな場所とかだったら拙いですけど。それ以外の場所だったらただの、そう、友人として接してくださいな。」 「それもそうだな。スザク、リリは本当は敬語とか使われたりするのが嫌いなんだ。だから遠慮なく接していいぞ。」 「う…えと、じゃあ、改めて。これからよろしく、リリーシェ。えっと、僕のこともさんとか、敬語とかなしにしてくれると嬉しい、な。」 「わかった。これからよろしく、スザク。」 なんとなく三人の間にほのぼのした空気が流れた頃、生徒会室の扉がガチャリと開いた。 「あ!誰かと思ったらルルーシュにスザクくん!って、あら?その美少女はもしやっ!」 「えっと…?」 ハイテンションな金髪の美人に、リリーシェは思わずあっけに取られて彼女を見た後、ルルーシュに視線を向ける。 ルルーシュははぁ、とため息をついて呆れたように口を開いた。 「…会長…。」 「会長ってことは…生徒会長さん、ですか?」 「そうよぉ!アッシュフォード学園の生徒会会長はこのミレイ・アッシュフォード!そういう貴女は今日付けでこの学園へ編入してきたリリーシェさんね!?」 「はい、そうですけど…生徒会長さんってそんなことまで把握してるんですね。」 思わぬ情報力にリリーシェは内心感心していた。 そんなリリーシェを放置して、ルルーシュはリリーシェの背を軽く押して会長に言う。 「会長、こいつを生徒会に入れてくれませんか?」 「あら、ルルーシュがスザクくんに続いてお願いしてくるなんて…最近は珍しいことばっかりね。」 ルルーシュの申し出に、ミレイは目をぱちくりと瞬かせた。 「本国に居た頃の友人なんですよ。と言っても、今朝7年ぶりに再会したばかりなんですけど。」 「音信不通だったからびっくりしたわ。今回はほんと兄様達に感謝しないと。」 「兄様っていうと…えっと、」 「ええ、通称オレンジ事件、または枢木スザク強奪事件のなんだか主犯になっているジェレミア・ゴットバルトが私の兄です。あ、私は別にそのことについて特に気にやんでいないので気になさらなくて大丈夫ですよ。」 「そ、そう?でも、どうしてお兄様に感謝を…?その、ゴットバルト領は今大変なんじゃ…。」 おずおずと尋ねてくるミレイに、リリーシェは清々しい笑顔で答える。 「領民の皆さんは最初は混乱していたようですけどすぐに静まりましたから領のことは問題なくなりましたし、兄の不祥事のお陰で私に対する見合い話がざっくり減ってくれましたし、兄の部下達にお詫びの品を届けるついでに母の手引きでこの学園に編入することになってルルと再会も出来ましたし、良いことづくめです。」 あくまで私にとって。 そう清々しい笑顔で言い切ったリリーシェに、ミレイはぽかん、としていたけれど、それもみるみる笑顔に変わった。 「そう、貴女もお見合い話にうんざりしているクチなのね!」 「ええ、もちろんです。大体政略結婚だとか名声の為だとか馬鹿げてますよね。正直私としては爵位が下げられても一向に構わないのですけど、両親が不自由するのは可哀想だと思って毎回破談させるのに苦労してます。」 「わかるわかる!すごくわかるわー!リリーシェさん、私貴女とはとっても良い友達になれると思うの!ぜひ生徒会に入らない!?」 同じ境遇の相手に、ミレイは嬉しそうに笑って言った。 その笑顔を見て、リリーシェはやっぱり美人は世界の宝だ、と心の中で呟いて、にっこりと笑み返す。 「そちらが良いのでしたら、是非。シャーリーからお話を聞いて楽しそうだと思っていたんです。」 「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわ!」 なんだか意気投合している二人に、ルルーシュは内心、生徒会につれてきたのは間違いだったかもしれん、と今後自分が被るだろう被害を考えていた。 ミレイさんとお見合いに苦労させられてるという妙な共通点で仲良くなってみた。 とりあえず夢主は男女関係なく美人は世界の宝を信条にしております(笑)。 |