《 大事なきょうだい 》
「な…ッ!?なぜお前がここに…!?」 奥の方から動揺したような友人の声が聞こえて、俺は足を速めた。 ここへ入るためにこの顔を利用したのは正解だったようで、一度あの人の顔を見たことがある人物は見事に動揺してくれていたから伸すのも簡単だった。 あの入り口を入れば、そこにはもうあの人が居る。 期待で胸が高鳴る。嬉しい。嬉しい。 やっと会える。 「…?…誰、ソレ。」 「まさかお前が玄冬だとでも…、」 怪訝そうな救世主―――花白の声と、動揺した銀朱の声に。 俺はカツリと靴音を立てて、口を開いた。 「はこっちだよ、銀朱。」 「え…」 「なん…だと?」 「お、前は…」 姿を現した俺に、3人はそれぞれが驚愕の表情を浮かべた。 ああ、まだ剣を奪う段階まで行ってなかったのか。 牢屋の中に居るあの人の姿は少し遠いのが残念だ。 「玄冬と…おなじ、かお…?」 「はじめまして、救世主。」 呆然とする花白に、ニコリと笑顔ひとつ。 花白の横に居るあの人は、じい、と俺を見て、戸惑っているようだった。 まあ、それもそうだろう。 髪の毛の長さ以外、ほとんど同じなのだから、俺達は。 「…?なぜ、ここに、いや、お前がそこにいるのなら、こいつはいったい…。」 「俺は今、多分きっと、生まれてきて一番嬉しい。」 「え…?」 戸惑う銀朱から視線をあの人に移して言えば、あの人は困惑した声を上げた。 カツ、カツ、靴の音が響く。あの人に近づく。 嬉しい。嬉しい。あの人がこんなに、近くに。 思わず表情が緩んでしまう。蕩けそうだ。 「再会が牢屋なんて、随分味気ない気もするけど…。」 「再会?」 牢屋の中で、俺と同じ顔が困惑にわずかにゆがむ。 牢屋の外で、俺はうっとりと微笑んだ。 「会いたかった。ずっとずっと会いたかった、くろとにいさん。」 「え、」 「くろと、にいさん…?そんな、」 「貴様、いきなり何を言って…!」 びっくりしたように目を見開いた玄冬兄さん、俺の言葉が信じられない、と言った様子の二人に、俺はようやく兄さんから目を外した。 チャリ、と手に握っていた鍵を、そのまま鍵穴へ差し込み、兄さん達の居る牢屋を開く。 「な!、貴様何をしているのかわかっているのか…!?」 「うん?ああ、わかってるよ、銀朱。俺の大事な大事な兄さんを牢屋から出そうとしてるんじゃないか。」 「お前に兄が居るなど初めて聴いたぞ!大体、そいつはあの"玄冬"なんだろう!」 「だって俺に兄さんが居るっていうのは言っちゃいけないことだから。でも、そうしたのは白梟だ。」 俺は銀朱にそう答え、最後は低く言い捨てた。 口元に笑みはあるものの、目が冷たくなったのが自分でもわかる。 「俺の目の前で母さんを壊したくせに預言師なんて偉そうにして。世界を守る大義のために俺の家族を笑顔で壊した。とっくの昔に自分の願いがかなわないと気付いているのに気付いていないフリをして。」 「お前、何を言って…」 「…と、ああ、そうか…まだ、知らないんだったっけ。余計なことを言っちゃったな。」 動揺している銀朱に、俺はそのことを思い出した。 俺には強烈に残っているその記憶は、きっと片割れの兄さんさえ覚えていないものだ。 生まれて本当に間もない頃のことだから。 でも、兄さんが覚えてなくて良かったと心底思う。痛いなんてもんじゃなかっただろうし。 本当にひどいものだったんだ。 あんなことをしなくても。 かれらのちからがあれば、にいさんをうばうことはかんたんだったのに。 「なにをごちゃごちゃと…!いくらでも玄冬の手助けをするならば容赦せんぞ…!」 そう言って、銀朱はすらりと剣を引き抜いた。 「隊長として判断は間違ってないよ、銀朱。ただ問題があるとすれば…―――」 俺はそこで言葉を区切り。 「既に鍵を開けていたことを忘れて俺にしか目をやっていなかったこと、だな。」 「な…うおっ!?」 「悪いね、銀朱。」 俺に声を出そうとした銀朱が、花白に攻撃されそのまま倒れこむ。 それを見届けて、俺は兄さんに手を貸した。 「俺は久しぶりだけど、…あなたの意識では、初めましてだ。俺は。あなたの、双子の弟だよ。」 「ふたごの、おとう、と…。俺は…玄冬、と言うらしい。」 戸惑うように、俺の差し出した手を掴み、牢屋から出た彼はそう答えてくれた。 泣きたくなるくらい、じんわりとしたものが心を震わせる。 「それじゃあ、とりあえず逃げよう。」 「ちょっと、さっきから一人で話進めないでよ、そっくりさん。」 「うん?でも、とりあえずここから逃げるっていうのは変わらないだろ。それに、…黒の鳥、居るんだろ?」 俺がそう言えば、ばさり、と羽音がして、次には目の前に黒い人物が立っていた。 「やれやれ、そこまでお見通しかい。」 「こんにちは、黒の鳥。定員オーバーだろうけどちょっと頑張ってもらえると嬉しいかな。」 「玄冬と同じ顔でにっこり頼まれると、私は断れないねぇ。…しかし、ここまで君が強かに育つとは思わなかった…。」 「ちょ、アンタもそいつ知ってんの!?」 「き、きさまどけ!」 だんだん混乱してきた場に、黒鷹はにっこり微笑んで、花白が銀朱に一発くれて黙らせてからこちらにやってくる。 うわあいたそうだ銀朱。これはもう少し休まないと動けないだろうな。 「それじゃあ、逃げようか。」 にっこり笑った黒鷹に、俺もにっこり笑みで返して。 握ったままだった兄さんの手を、きゅ、と握った。 未プレイの方にやさしくない始まり方すぎてすいません。 花帰葬ゲーム本編での「Children's Cage」辺りの分岐なお話です。 シナリオとか決まりごととか色々ぶっ飛ばしルートです。 夢主は玄冬至上主義な、元現実世界の住人設定。 |