《 おぼえているよ 》



「…うん、人生三度目の空間転移…だけど…定員オーバーのせいか、きもち、わる…。」

頭がふらふらする。まだ地面が揺れているようだ。
一度目は白梟の転移だったから特に何も感じなかったし、二度目は赤ん坊だったからか結構マトモだったんだけどな。

「…で、…あんた、何なの…?」
「気持ち悪い中わざわざたずねてくるとは根性があるな救世主。」
「僕には花白って名前があるんだから、救世主とか呼ばないでよ…同じ顔で。」

そう答えた花白が、とても辛そうに眉を潜めたので、さすがに悪いことをしたかと思って小さく微笑んだ。
実はちょっとだけ玄冬を意識してみたのは内緒だ。

「わかった、花白。」
「…ッ!」

うっすらと浮かべた笑みに、花白の白い頬が赤く染まる。おお、同じ顔のせいか反応が顕著だ。

「じゃあ改めて自己紹介しよう。俺は。玄冬の双子の弟。ここ数年は旅をして世界を巡っていた旅人だ。」
「…?双子なのに、一緒に暮らしていたんじゃないのか?」
「あ、兄さん今記憶喪失なんだっけ…。ええと、まあ俺達生まれた頃に色々とあってさ、兄さんはそこの鷹に引き取られて、今まで別々に暮らしてたんだよ。」
「そう、なのか…。」

気まずそうな兄さんは、おそらく俺のことを忘れていると思っているせいなのだろう。
記憶を取り戻したとしても、そこに俺の姿はないのだけれど。そういう顔をしてくれるのは、ちょっと嬉しい。

「兄さん、…終わったら、」
「?」
「全てが終わったら、…父さんに、会ってみない?もちろん返事は兄さんが全て思い出してから、それから考えてくれればいい。ただ…そういう選択肢があるってこと、覚えていて欲しいんだ。」
「よく、わからないが…わかった。考えておく。」
「…うん。」

頷いてくれた兄さんに、嬉しくなる。
この人はほんとうに、やさしくて、やさしくて。

「しかし、、君、いったいなんで我々のことを知っているんだい?」
「昔、見たことがあるから…、っていっても、納得は出来ないだろうし、してくれないんだろうね。」

そう答えれば、黒鷹は苦笑を浮かべただけだった。

「父や叔父、親族に聞いたわけじゃない。俺はただ、貴方達を知っているだけ。…あの時俺が生きれたのは、貴方が止めてくれたからだ。随分時間が経ってしまったけれど…ありがとう、今を生きれて、俺は貴方に感謝している。」
「君…、まさか…そんな、…覚えて、いるのかい?」
「覚えている。外の雪が冷たかったこと、母のぬくもり、傍らのぬくもり、離された後の、血のあたたかさ、母の慟哭の声、あの人が壊したなにもかも。」

今も、覚えている。きっとずっと忘れることはない。
憎んでいる、わけではないと思う。恨んではいるかもしれないけれど。
でもそれ以上に、俺はあの人を憐れに思う。

「貴方が、そんな顔をする必要はないんだ。救世主の血が傍にあったのだから、貴方が力で競り負けたのは貴方のせいじゃない。それに、あなたは母と俺を父に戻し、兄さんを引き取ってくれた。」
「けれど、…恨んでは、いないのかい?」
「貴方には感謝こそすれ、恨むなんていうことはない。白の鳥のことはまあ、恨んでしまうのは仕方がないと思って欲しい。…だってあの人は、もうわかっているのに、気付いているのに、認めたくなくて俺の家族を壊したのだから。」
「君は…本当に、一体どこまで、知っているんだろうね…。」

黒鷹は痛みを孕んだように目を細めて、それでも微笑んだ。
この人も不器用な人だ。











ちょっとだけ続いて塔へ。
本編よりも人数が一人多いので酔いも多分ひどかったんじゃないかな!