《 旅は道連れ 》



「客だよ。」

俺の声に、炎の方を向いていた呪術師が振り返った。
俺を見て、それから俺の後ろをついてきた二人を見て、面白そうに笑う。

俺はそれにため息ひとつで答え、二人の邪魔にならないように少し離れた場所で足を止めた。
二人は…もとい、主にコノエが、呪術師と会話を進めている中、ライは胡散臭そうに呪術師を見ていた。

気持ちはわかる。物凄くわかるが、確かに胡散臭いけどこの人味方ですから。

そんなことを思っているうちに、もうすぐ話は終わりらしい。
結局俺が警戒してたのも意味なかったな、と思いながら、俺は寄りかかっていた壁から背を離した。
そして、別に見られても構わないだろう物語の中心人物たちの前ということで俺は被っていたフードを外す。
洞窟モドキの中とは言え、炎を焚いている分この部屋でフードを被っているのは少し暑い。


「ん?」

さて夕飯の準備でもするか、と思った矢先に声を掛けられて、俺は呪術師を見た。
何故か少し驚いたようなライとコノエ。
別に俺の名前、そんなに驚くような名前でもないと思うんだが、どうかしたのだろうか。

「おぬし、こいつらについていくといい。」
「っは!?」
「え、」
「なんだと?」

呪術師の言葉に、三者三様に声を上げる。
上から俺、コノエ、ライだ。結構わかりやすい。

「…あのさ、どこの話の流れからお、僕がこの二人についていくっていうことになったのさ?」
「おぬしの力はここで燻っていても仕方ないようなもんばかりじゃろ。それに、」

そこで呪術師は言葉を切って、コノエを見やる。
俺もつられて視線を向ければ、コノエは少しうろたえたようだった。

「おぬしらにとっても悪い話ではないはずじゃ。」
「で、でも…そいつ、まだ子供だろ。」

…なんだろう、コノエって子供だのどうのって拘るヤツだったっけ?
というか、子供とか小さいとかいちいちうるさいぞ。
好きで小さくなったんじゃないっていうのに…。

微妙にイライラしている俺に気づいているのは呪術師だけで、ヤツは楽しそうに俺を見て笑っている。くそー。

「…わざわざついていけって言ってるということは、ついていった方が良いってこと、なんだろう?」

俺がそう言えば。呪術師は少しだけ面白くなさそうに表情を崩した。

「なんじゃ、おぬしは相変わらず感だけは良いのう。つまらん。」
「つまらなくて結構。」

さっきはつい「なんで?」といわんばかりの反応をしてしまったが、よくよく考えてみれば、主人公であるコノエと共に行動したほうが帰れる確率が高そうなのは確か、だろう。多分。
でもついていったらこう、なぁ?ぼーいずらぶ的なものに巻き込まれたり、悪魔に殺されそうになったり、リークスに殺されそうになったりしそうじゃないか。
そんなことを考えていたのが呪術師にはバレバレだったのか、呆れたようにため息を吐かれた。

「どうせおぬしのことじゃ、一緒に行動したら厄介ごとに巻き込まれそうで嫌だなーとかそんなしょーもないことでも考えておったんじゃろ。」
「…否定はしないが。」
「…俺、呪われてるからな…。」

俺の言葉に、コノエが少し落ち込んだように呟いた。
ちょっとまて。俺は別に呪いのことなんざ一言も言ってねぇぞ。

「…別に、呪いのことだなんて言ってないでしょ。大体そんなもんさっさと解けばいいだけの話で、僕が言いたかったのは………、」

むう、まさかこれからコノエが悪魔4人に付きまとわれたりぼーいずらぶ的展開に発展したり悪い魔術師と言われてるリークスと闘うことになるのが面倒でー、とか言えないし、なんて言えばいいんだ?

「いいよ、そんな無理にフォローしなくても…。」
「だーかーらー、そうじゃないんだよ。僕は、あー、その…。」
「やれやれ…。」
「うわっ!?」

はー、と呆れたようなため息と共に、俺の頭からべりっと何かがはがされた。

「…はっ!?」
「………。」

心底びっくりしました、といわんばかりに、コノエが奇妙な声をあげ、ライもまた目を見開いて俺を凝視していた。
俺は強引に俺の頭の上から猫耳をはがした呪術師をじろりとにらむ。

「ま、こやつが厄介ごとに巻き込まれたくない理由はコレじゃ。」
「え、な、耳、耳がはがれたぞ!?な、なん…どういう…!?」

飄々と俺の視線をかわし、呪術師はコノエたちにそう告げた。
コノエたちはそれでも呪術師の手にある猫耳と、俺とを視線を交互させる。

「…その耳、と、あと尻尾も。ただの作り物だからそんな驚かなくていいよ。」
「作り物…?」

怪訝そうな声。まあ、今や猫耳猫尻尾つきじゃない人間…もとい、猫は居ないのだから、当たり前か。
俺は諦めのため息をひとつ吐くと、本来の人間の耳を隠していたサイドの髪を掻きあげた。

「…君達の言葉にすると、僕は"二つ杖"っていうものにあたる。本来はこの世界の存在じゃないんだけど…少し前にいきなりここに飛ばされてね。なんでも僕みたいなのは生き神のように崇められるか高額で取引されるかのどっちからしいから、こうしてカモフラージュさせて貰ってるんだ。」
「ふ、二つ杖…!?」
「言っておくけど、別に耳の形が違くて、尻尾がないだけで君達と大した差はないからね?」

まじまじとこちらを見てくるコノエと、興味深そうに見てくるライに、一応告げておく。
なんかこの世界って人間を神聖視しすぎだと思うんだよな。
悪魔も言ってたけど、人間なんて基本的に欲望の塊ばっかだからなー。
それはいいとして、俺まで神聖視されたんじゃ、これから先が思いやられるし一応言っておかないとな。

うんうん、と頷いていると、今度はがぽっと頭に猫耳を装着させられた。
呪術師を見上げれば、なんだか満足げな顔をしていた。むかつく。

「ま、良かったのう。」
「……ああ、そうだな。…礼は言っとく。ありがと。」

呪術師は笑いながら俺の頭を数回撫でただけだった。
子ども扱いされているような気分になるが、今回ばかりはそれに甘んじてやろう。
てか、実年齢考えれば多分呪術師って俺よりかなり生きてるはずだから、ほら、なんつーか、孫と祖父みたいな感じに違いない。











おじいちゃんとまご、ってよりは、ハタから見たらおじさんと養子?