《 はじまりの鐘 》
モノレールが止まったのを感じて、私は本から顔を上げた。 列車だかなんだかの故障でだいぶ時間が遅れてしまった。 「…そういえば…。」 弟がこのモノレールに乗った日も、同じように故障して遅れたとか言っていたような気がする。 …定期点検でも怠ってるんだろうか、このモノレール…。 大きな荷物は後日送られてくる手配になっているから、それほど荷物は多くない。 ふ、と駅を出がけに時計を見上げれば。 「あ…―――」 かちり、と、0時に針が進み、止まった。 それと同時に、”せかい”が変わる。 人は棺桶の姿をとり、影の姿をしたものが動き出す。 「……とりあえず、周りには居なさそうかな。」 辺りをうかがってみるが、それらしき気配は感じない。 私は荷物を持ち直して、本来の目的地への道へと足を踏み出した。 「ん…?」 しばらく歩いていくと、なにやら物音がして、私は足を止めた。 物音がする、ということは、影か、影が誰かを襲っているか、それとも――― 「私と同じ、人間が動いている、か。」 少し考える。 が、物音がしているのは私の通り道だったので、とりあえずゆっくりとそちらへと進むことにした。 そこで戦っていたのは、見知らぬ銀髪の青年と、やっぱり影だった。 見ているうちに、青年はさくさくと影を倒していく。 その場の影すべてを倒しきった後、彼はようやく私に気付いたらしく、こちらを見て目を見開いた。 「っ君は…!?」 驚いた様子の彼を見て、安全そうだと判断した私は彼の方へと近づいた。 「こんばんは、強いんだね。」 「あ、ああ…まぁ、な。それより、君はこんなところで何を?いや、怪我はないのか?」 「怪我は特にないかな。こんなところ、って言うか、丁度ここは私の目的地への通り道だったから通りかかっただけ。」 「そう、か…。」 突然現れた見知らぬ女に狼狽を隠せないのか、彼の反応はいまいちだ。 もしかして女性の扱いには慣れていないのだろうか。これだけ顔が整っているのだから、それなりに女性にモテそうなものだけど。 「とにかく、今の時間は危険だ。それに、聞きたいこともある…悪いが、一緒に来てもらえないか?」 「君が悪い人じゃなさそうなのはわかったけど、私にも都合があるの。モノレールの遅れのせいで到着が遅れちゃってるから早く分寮に行かないと…。」 「分寮…?」 「?ええ、月光館学園の巌戸台分寮。編入の手続きが梃子摺っちゃって今日になっちゃったんだけどね。」 「ちょっと待ってくれ。俺が一緒に来て欲しいのもそこなんだが。」 頭を抑えた青年の言葉に、私は彼の姿をもう一度見た。 …上着を着ていなかったからわからなかったけど、もしかしなくても彼も学生じゃないか? それに、今の台詞を聞く限り、彼もそこに住んでいるっぽい。 「そうなの?それなら私に異論はないよ。」 「そうか…。しかし、編入者の話は聞いていなかったな…。」 「あぁ、当初の予定だと弟と一緒に編入するはずだったんだけどね、色々あって。私だけ少し遅れてここへくることになったの。」 「…弟?…数日前に、碧海という男子が同じ寮へ入ったが…。」 「奏のことね。私の弟よ。…あ、そういえば自己紹介もしてなかったっけ。私は碧海。少し前に編入した碧海奏の姉です。」 「俺は真田明彦。碧海の姉ということは俺と同じ3年か?」 「うん、そう。同じ学年なんだし、でいいわ。」 「わかった。俺も明彦で構わない。」 「よろしくね、明彦。」 「ああ。」 4月9日。…いや、0時は過ぎたのだから、9日と10日のハザマ。 今日は満月だったようだ。足元が見やすくて良いことだ。 明彦とは他愛もない話をしながら、分寮へと向かっていた途中、不意に強い気配を感じて私と明彦は足を止めた。 「っなんだ、これは…!?」 「…っ」 ぞくぞくと悪寒が走るのを感じる。 こんなに大きい気配は、久しぶりだ。 「危ないっ!!」 「え、あ…!」 明彦の声に疑問の声を上げる前に、私は明彦によって突き飛ばされていた。 「っ…!」 コンクリートの感触が少し痛い。 でも、痛いなんて言ってられなかった。 影の中から生まれ出るような何かが、明彦の身体を押しやっていたからだ。 「明彦!」 明彦は返事をする余裕がないのか、はたまた意識を飛ばしているのか、返事は返ってこない。 当たり所が悪かったのか、意識を沈ませた明彦から、影が私に目標を変えたようだった。 「…っ」 影から伸びた腕の持った仮面が、ぎょろりとこちらを見る。 ぞくりと走る悪寒に気付かないふりをして、私は私に語りかけた。 「…エウリディケ…!」 もう一人の私。 私の声に応えて姿を現したエウリディケが、影を少し遠くへと弾き飛ばす。 本来回復や守備主体の私のエウリディケでは、このくらいがせいぜいだ。 ともかく、影がダウンしている隙に、エウリディケを戻してから私は明彦の元へと走り寄った。 「明彦!しっかりして…!」 「…っ…う…」 少し肩を揺さぶって声を掛ければ、明彦は苦しそうに眉を歪めて、ゆっくりと目蓋を開いた。 意識が戻ったことにほっとして、倒れていた明彦を起き上がらせる。 「く…意識が飛んでいた…怪我はないか?」 「私は大丈夫。明彦のほうが怪我が…。」 「ああ、これは少し…マズいな…。…!やばい、走れ!」 明彦は少し離れた場所でこちらの様子を伺っていた影が動き出したのに気付いて、私の腕を引いて走り出した。 どう考えても結構重症な怪我を負っているはずなのに、これだけ動けるのはすごい。 「美鶴、俺だ!」 なにやら通信をしているらしい明彦から視線を外し、後ろから着いてきている影のほうを見る。 「…っうわ…増えてる…」 「周りのシャドウを呼び寄せたか…!くそ…っ」 わさわさと私たちを追いかける影―――シャドウの群れ。 見ていて気分の良いものではない。攻撃性もあるし、余計に。 「って、私たちどこに向かってるの!?」 「とりあえず寮だ!あそこには仲間が居る!」 「わ、わかった!」 彼の言う「仲間」とは、彼のように―――そして私のように―――もう一人の自分に目覚めた人間のことだろう。 完全に目覚めた人間に会うのは、今回が初めてだ。 だからこそ、こうしてこの地で、同じ人間に会うのは…因縁めいたものを感じてしまう。 「もうすぐだ…!」 「あそこね!」 重症を押して走ってきた明彦ではタイムロスが発生してしまうだろう。 そう思い、私は見えてきた分寮の扉を思い切り開き、驚いたように私を見る人達を一瞥し、明彦が中に入ったのを確かめると再び思い切り扉を閉めた。 バターン! 「っはぁ…っ、つ、つかれた…。」 「ああ…っく…!」 「せ、先輩!?」 驚いたように私を見ていた一人、呼称から察するに後輩の一人だろう少女が、痛みに顔を歪めた明彦に声を掛ける。 「君は…」 「あ!もしかしてくん!?」 赤い髪の女の子の声に視線をそちらにやれば、私の方を見て驚いたように声を上げる人物が居た。 彼の声には聞き覚えがある。 「あ、はい。今日の夕方にはこちらに着く予定だったんですけど、モノレールの故障でこんな時間になってしまって…遅れてすみません。」 「遅れて…?どういうことです、理事長、聞いていませんでしたが…。」 「え?あれ?…………ご、ごめん、奏くんと一緒に言っておいたような気になってたよ…。」 「って、今はそれどころじゃないような気がするんですけど…」 ガンガン!! 私の言葉を現すように、外から激しく叩かれ(?)、建物が大きく揺れた。 「えっと、私は碧海、数日前にこちらに入寮した碧海奏の姉で、月光館の3年になります。で、非常事態ですし、逃げるなりなんなりしたいんですけど、対策はどうすれば…?」 「あ、ああ…私と明彦が相手をする。君と岳羽は碧海を起こして裏口から逃げてくれ。」 「…あなた方を疑うわけじゃなく、聞くけど…二人で大丈夫?」 「心配してくれるのはうれしいが…今はやるしかない。」 「時間もない、早く行け!」 明彦の言葉を切欠に、私は岳羽と呼ばれた少女と一緒に奏を起こしにいくことになった。 「えっと…先輩なんですよね。私、二年の岳羽ゆかりって言います。今は色々説明してる暇はないので…とにかく急ぎましょう。」 P3のお姉さん設定な主人公。ちょっとややこしい設定ありです。 最初っからペルソナ使えて真田先輩呼び捨てとか、色々厨設定。 あ、あと要望があればP3主の苗字と名前も変換出来るようにします。 |