《 喪失と逃走 》
ふ、と意識が上昇する。 「あれ…?」 どうやら、俺は駅前に居るようだった。 だが、俺が本来降りるはずだった駅ではない。 …駅では、ない、はず。 「…俺、どこに行こうとしてたんだっけ…?」 考えればすぐに出てくるはずの答えが出てこない。 つぅ、と嫌な汗が背筋を伝う。 「あ…れ…?」 どくんどくんと心臓の音が聞こえる。 そういえば、先ほどから周りに見える棺桶のようなものは一体なんだろう。 どうしてこんなに、―――人が、居ない? びくびくしながら首をかしげていると、ふと、ゾクッと悪寒のようなものが背筋を走った。 どこかから見られているような気がする。 「―――っ!?」 視線を感じた方角を見てみると、影のようなものがうごめいているのが見えた。 「ひ…っ」 引きつったような悲鳴が、喉からこみ上げる。 こちらを伺う様子だったその影は、音に反応したのか動き出した。 ―――俺の居る方向へ。 「っ…!!!」 突然のことに悲鳴を上げることも出来ない。 迫ってきた影の腕にハッとしてなんとか身を翻す。 ドガァンッ! 振り下ろされた影の腕は、容易くコンクリートに傷を与えた。 「っ、な、な…こ、れ…!?」 恐怖と混乱で意味のある言葉は口から出ない。 影が体勢を整える前に、俺は影とは反対の方向へと、駆け出していた。 「っは、はっ、…ッ!」 先ほどから全力で走っているけれど、一向に影との距離は離れない。 それどころか、若干、追いつかれているような気がする。 「っふ、っ…なんなんだよぉ…!」 呻いてもただ体力を無駄に消耗するだけだとわかっていても、言葉にせずにはいられない。 だって理不尽だ。意味不明だ。 俺が一体何をしたっていうんだ…! 「っはぁっ、っは、…!」 目の前の曲がり角を曲がろうとして、バランスを崩す。 倒れそうになる体をなんとか押しとどめて、壁に手をついた。 「げほっ、ごほ…ッ、は…っ」 「誰か居るのか?」 「―――!?」 思わず咳き込みながら進んでいると、前方から声が聞こえた。 驚いて顔を上げる。知らない顔だ。 でも。 「―――ひ、と…?」 「っ!」 ようやく人に会えた。 その安堵からか、思わず息を抜いたところで。 「危ないっ!」 目の前の青年の鋭い声。 そこで自分が追われていたことを思い出し、そして同時に背後に気配を感じた。 「ッ…!!」 何かを考える暇もない。 本能が感じるままに前へと飛び出す。 ザシュッ!! 「ぅあ…ッ!」 避け切れなかったのか、左足に強い熱を感じた。 痛みというより熱さに顔をしかめ、そのまま身体のバランスを崩してしまう。 「っ痛…!」 「おい、大丈夫か!?」 崩れ落ちた俺を心配してか、青年がこちらへ近づいてくる。 「っだ、だめだ危ない!」 「ああ、わかってる…!」 頷き返した青年に、俺は虚を突かれて言葉に詰まった。 思わず言葉もなく青年を見返すと、彼はホルスターに吊り下げられていた拳銃を取り出し。 「え…ッ!?」 自分の頭へと向けた。 そうして、俺が何か反応するより先に、躊躇いすらなく、彼はその引き金を引いた。 「っ…!」 広がるだろう惨劇を想像して、思わずぎゅっと目を瞑る。 けれど、いつまで経っても銃弾が人体を貫く音は聞こえてこなかった。 閉じていた目を恐る恐る開いてみれば、信じられない光景が広がっていた。 引き金を引いたはずの彼は無事で、それどころか余裕で影と戦っている。 そして、影に対して大きな攻撃を加えているのは、さっきまでは見当たらなかった、不思議な形状の…なんだろう、機械的なモンスターのような形をした”なにか”だった。 足の痛みも忘れてぽかんと見ていると、その戦いはすぐに終わったようだった。 彼に助力しているように見えた”なにか”は、戦いが終わるとすぐに消えうせる。 そして、青年は辺りを見渡して、近くになにもないことを確認すると、俺のほうへ振り返った。 「もう大丈夫…ッ!ひどい怪我だな…。」 俺の脚を見た彼の顔がわずかにゆがむ。 青年の言葉を聴いた瞬間、忘れていた痛みがじくじくと痛み出した。 それと同時に、意識までもがゆっくりと白に染まっていく。 ふらりと身体が傾げるのを感じながら、俺はそのまま意識を手放したのだった。 姉主もトリップ主も最初に出会うのは何故か真田先輩でした。 外を単独で出歩いてるのって真田先輩かガキさんしか思い浮かばなくて…。 |