《 少年と悪魔 》



それは、アメルをつれて村から逃げている時だった。
追っ手が掛かっていたのをなんとか振り切っている途中。

足場が悪かったせいで足を躓かせて転んだトリスの背後に追っ手が武器を振り上げているのを見て、なんでもいいからとただただ全ての魔力をサモナイト石に注ぎ込んだ。

なんでもいい、トリスを助けてくれるのならなんでもいいから、俺に力を貸してくれ…!

「っぐ…!」

正式な手続きを行ったわけじゃないからか、相手側がひどく反発しているのを感じた。
体がその力に痛みを感じ、思わず呻く。
トリスの護衛獣であるバルレルは、トリスの命令で先に走らせたネスとアメルの護衛をしていたのだが、こちらの様子に気付いたのか「おいっ!?」と声を上げて走ってくるのが見えた。なんだかんだと、あいつは優しいのだ。

次の瞬間、先ほどまで反発していた力が、逆に俺の力に添えるように手助けされて。

「―――ふむ、まあそこそこか。」

そんな、涼やかな声が光と共に俺の前に現れたのだった。

カキィンッ!!

「っ!?」

その人物が軽く手をやると、トリスに襲い掛かろうとしていた追っ手が氷の中に閉じ込められた。

「で、召喚主よ、お前の望みは叶えてやったぞ。」
「え、あ、あぁ…ありがとう…!」

長い黒髪に、真っ白い肌。
凍ったような蒼色の瞳が俺に告げた言葉は、淡々としていたけれど。
俺はほっと、凍りかけた心が溶けていくのを感じた。

「トリス!大丈夫か?」
「う、うん…あ、あれ?」

トリスは俺の言葉に頷いて、立とうとするけれど、立てないようだった。
慌てて俺はトリスに肩を貸す。
まだ追っ手を完全に振り切ったわけではないのだ。

「て、てめェ!なんでテメェが此処に居やがるんだよ!」



バルレルの言葉が聞こえ、知らない名前にそちらを見やる。
そこにはバルレルと、そして俺が呼び出した彼が向かい合っている姿があった。

「…?お前…狂嵐のか?」

心底訝しげに、彼がバルレルに問う。

「狂嵐って…?」
「あ、えとバルレルのー、なんかあだ名?みたいなやつっぽいよ。」

思わず呟いた俺に、トリスが説明してくれる。
へえ、ってことはあの二人は知り合いなのかな。

「…?あれ?」
「どうしたの、お兄ちゃん。」
「いや、結構時間経ってるのに、どうして彼送還されないんだろうって…これじゃあ護衛獣、と…」

え?あれ?
そうだよ、これじゃあ護衛獣と同じじゃないか、って言おうとしたけど。
ひたすら魔力を込めに込めまくった、呼びかけだけだったんだ。あれは。

「あれー…?あ、あの!」
「…?」

思い切って声を掛ければ、彼は静かに俺を見た。
バルレルの知り合いらしいし、耳の形とか、黒っぽい服装からも彼も悪魔なんだろうけど。
随分と違う感じを受ける。

「あの、その…とにかく無我夢中で魔力を込めて呼びかけちゃったんだけど…えと…その…、もしかして、護衛獣として、呼んじゃったかも…しれない…んだけど…。」
「えぇ!?お、お兄ちゃん、護衛獣として、って!お兄ちゃんハサハはどうなるのよ!」
「お、俺だってそんなつもりで呼んだんじゃ…!トリスが危ないって思ったらこう、つい力が入って…でもこんなに時間が経っても戻れないってことはそういうことだろ!?」

俺とトリスがあわあわと慌てているのに、目の前の彼はふむ、と呟いて俺達を見て、バルレルを見た。
バルレルはあきれたように俺達を見て、そして彼を見、また俺達を見た。

「あー…つーかよ、とりあえずさっさと此処から離れるんじゃなかったのかァ?メガネとオンナがあっちで立ち止まってるぜ。」
「あ!そ、そうだった!えと、詳しい話とかは後でもいいかな、今は逃げなきゃいけないから…」
「良かろう。」
「良かった…えっと、俺はマグナ。こっちは俺の妹のトリス。そっちはトリスの護衛獣の…多分知り合い?っぽいけど、バルレル。君の名前は?」

俺はトリスを支えていないほうの手で彼に手を差し出す。
彼は少しきょとんとしたようだったが、それから、ああ、と何か思い出したように呟いて。

「私は。そこの狂嵐ののようにと呼ぶものも居るがな。好きに呼べ。」

そう答え、俺の手を握ってくれた。

「えっと、それじゃあ…、よろしく。」

俺が笑顔で頷くと、再びサモナイト石が光った。と、思った瞬間。

「…む。」
「はは!お前もそうなったか!」

なんだかおかしそうなバルレルの声が聞こえ、俺はサモナイト石から達のほうへと視線を戻した。
でも、先ほどの視線の先には居ない。声は聞こえたから居るはずなんだけど。
そう思い、バルレルくらいまで視線を下げると。

「…ふむ、なるほどな。」

なんて、どこか納得したように頷く、…子供、の姿になったが居た。

「え、ええっ!?ど、どうして?」

トリスがびっくりして声を上げる。俺も同じ気持ちだ。
さっきまで俺達よりも大人の姿だったのに、一体なんで。

「マグナが私の名を呼んだだろう。おそらくそれで縛られたんだな。」
「ええっ!?」
「今はともかく、此処を離れるのが先決なのだろう?詳しいことはお前達が落ち着いたら話し合えば良い。」
「え、あ、う、うん、そうだな。よし、急ごう!」

の言葉に頷いて、俺達は再び足を進めた。











ナチュラルに主人公二人双子設定。
夢小説じゃほぼ当たり前な設定ですが、公式だと有り得ないんですよねー。