《 愛は盲目 》



ぽかん、と口を開けてこちらを見ている人物を見て、私はただその瞳を見返した。
そこに居るのが信じられない、とでも言いたげに、何度か瞬きをしたあと、その人物は駆け足で私の方へ走り寄ってきた。

「な、ど、どうして貴方がここに居るんですか!?」
「居てはいけないのか?」
「いえっまたあえてすごくすごーく嬉しいですけど!で、でも、自らこちらへ来るなんて…」
「召喚されたのだ。」
「召喚?」

興奮に白い頬を紅潮させて言うその人物に、私は淡々と答える。
いつも思うのだが、こいつは少々落ち着きというものが足りない気がする。
以前殲滅のにそんなことをぼやいたことがあるが、そのときは確か「お前は落ち着きがありすぎだと俺は思う」とか言われて話が終わったような。
そんな私の心中に気付くことなく、私の言葉にきょとんと目を丸くしたそいつはその瞳を剣呑に光らせた。

「貴方を召喚ですって?一体どこの身の程知らずですか。私が殺してあげます。」
「お前はまた…。私は知人と共に居る。別に不当な扱いなど受けておらん。余計なことはするな。」
「っですが!それにその姿、誓約で縛られているのでしょう?」
「ん、あぁ…多少不便ではあるが、な。…メイ、そう膨れるな。」

私に合わせてかがんでいたそいつ…メイの頭をよしよしと撫でてやる。
メイは猫が懐くように心地良さそうに目を細めた。

「父上…父上は私と一緒に来てはくれないのですか?」

父、と私を呼ぶが、私とメイは血がつながっているわけではないし、私が育てたわけではない。
ただ、大昔に消えかけていたメイをたまたま救ったら妙に懐かれてしまい、何故か父と慕われてしまっただけだ。
私の邪魔をする様子もなかったので特に気にしないでそのまま放置していたため、呼び方もそのままなのだろう。

「お前と?…ふむ…悪いが、少々立て込んでいてな。」
「そう…ですか…。」

断れば、目に見えてしゅんと落ち込んだのがわかった。
今はニンゲンの姿をしているが、悪魔なのに妙に悪魔らしからぬ表情をメイは私に見せる。
そう、―――を殺したときだって。

「父上?」

一瞬、血に濡れた手を思い出した私に、メイは怪訝そうに声を掛け、心配そうに眉を寄せた。

「どうしたのですか?どこか具合でも?」
「いや、なんでもない。私はそろそろ戻る。」
「あ、…はい。私も、余り出て来れないですが…また、会えますよね?」

それは、訊ねるというより、どこか懇願に近い声だった。

「…おそらくな。」
「っはい!くれぐれも怪我などなさらないで下さいね。また、楽しみにしています。」

図体のでかい青年の姿で、まるで子供のような笑顔で、メイは嬉しそうに再会の約束を口にした。

メイと分かれてしばらく歩いて、ふと。
そういえば、あいつは一体どうしてリィンバウムに居たのだろう、と。
召喚されているにしても、あの自由さは妙だな、ということに気付いた。

考えてみるが、答えは出ない。
あいつのことだ、召喚主を傀儡にでもしているのかもしれないな。

特に何の感慨も覚えないままそう結論付け、私はマグナの待つ屋敷へと足を進めた。











レイムさんがまるで人畜無害のように見える主人公マジック。
お互いに現在の状況を知らない状態での再会です。
相手によって微妙な温度差がある主人公…を、表現したかった。