《 クオイの森にて 》
----ここ、どこだ? つぶやいたはずの声は、声にならなかった。 声。っていうか、音って、どうやって出すんだっけ? 視界は綺麗な青色をしていた。 つめたい。 とてもとても綺麗なのに、その青色は冷たいと思った。 それは直感のようなもので、どうしてそう感じたのかなんてわからずに、ただつめたい、と思う。 わからないまま、手をのばして。 そこに、なにかあたたかいものが触れたような、そんな気がした瞬間。 青色は消え、目の前を光が覆ってそして意識がふつりと途切れた。 「っうお…!」 後ろのほうから知らない声が聞こえる。 前にはやわらかな、布の感触…だろうか。 「…ぅ…」 なんだか体が重い。 いや、違う。 さっきまでが軽すぎて、不意に体の重さが現れたようで認識が追いついていないのだ。 「っぃ、たぁ…」 「おい、大丈夫か…っていうか服!ちょ、その姿でこっち見るな!」 「ふぇ…?な、なんです?へ?」 自分の口から出た声に、思わずきょとんとしてしまう。 先程驚いたような声を上げた主を視界に収めると、白い頬がほんのり赤色に染まっていた。 「あ、あれ?声…え?わた、私の声…?」 声がやけに可愛らしい女の子の声になっている。 というか、話し方が妙になっている。 大体さっきのは「なんだ?」って言ったつもりだったのが、なぜか「なんです?」なんて丁寧語になっていたのだ。 第一人称も、可愛らしい女の子の声らしく「俺」から「私」になってしまってるし。なんだこれ。 「っだー!!ちょ、もう、これでも被ってろ!」 「ふぇっ!?や、な、なんです!?」 ばさっ!と何かを頭から被せられて、視界が黒くなる。 慌てて明かりを求めて動くと、どうやらそれはマントのようだった。 マント?そんな非常識な。 っていうか、あれ?今思うと、これ被せてきた奴の顔、どこかで見たことあるような…? 「なんだ?なんなんだ?分裂…??」 マントの影からこっそりと声の主を見てみる。 艶々の長い黒髪に、黒を基調とした服。左腕に―――見覚えのある、魔導器。 つい先程までプレイしていたゲーム…の主人公そっくりだ。 というか、周りは森。 …意識を失う前に、確かこの場面まで進んでいた、と思うのだけど…。 じぃー、と見つめていると、俺の視線に気付いたのか、ようやく動揺が収まったらしい彼は少しおずおずと話しかけてきた。 「なぁ、あんた…エステル、じゃないよな?エステルはそこで倒れてるし…。」 「えと…エステルじゃないです…。あ、あの、ここ、どこです?私、どうしてここに…」 「うぉわっまて、マントを脱ぐな!」 「???」 余りの慌てように、俺はマントを脱ぎ去るのをやめる。 そうして、視界に入れたものに言葉を失った。 「…え?…え?」 俺の視界には、その、なんというか。 やわらかそうな、ふたつのふくらみ。 「な、なんで私裸なんです!?」 「俺が知るか!」 「うう…わ、私が何したっていうんですぅ…」 体が女の子になってしまってるようだし、涙腺もゆるくなっているのか、じわりと視界が滲む。 認めたくないけれど女の子になってしまったのも、素っ裸をこの男に見られたのも認めるしかないのだろう。 「うう…えと、それで、貴方は誰なんです?あとここがどこかも教えてもらえると嬉しいかもです。」 「あ、あー…俺はユーリ。ユーリ・ローウェルだ。そっちで倒れてるのがエステル。ここはクオイの森。…で、あんたは?」 「私は…」 正直に答えても良いのだけれど、この世界で俺の名前はちょっと珍し過ぎる気がする。 どうしたものかと考えて、そういえばさっきユーリが妙なことを言っていたのを思い出した。 「ユーリさん、さっき私と彼女を見て分裂がどうのって言いませんでした?」 「あ?ああ、髪の色とか違うけど、顔はそっくりだからな。」 「私が…そっくり…?」 一体何が原因でこっちの世界に、しかも女体化して来たのかわからないけれど。 エステルと同じ顔、っていうのはなんだか妙な作為を感じる。 さら、と頬に触れる髪の色は黒。このあたりは変わっていないようだ。 まるでエステルとユーリを足したような感じだよなあ、と思って。 「あ…私、ユリエス、です。」 「それ、本名?」 そのままカップリングの略称を名乗ってみると、ちょっと苦笑したようなユーリの顔。 こんな挙動不審してたらわかりますよねー。ですよねー。 「私、さっき、ここで気がつく前まで、この姿をしていなかったんです。信じてもらえないかもしれませんけど…。鏡を見てみないとわからないですけれど、もともとの私の姿はエステルさんとは似ていませんし、せいぜい髪の色くらいで…。こんな状態でもともとの名前を呼ばれても、なんといいますか…気持ち悪いと言いますか…。」 「ずいぶん正直に話すんだな。」 「貴方も私に正直に教えてくれましたよね?…えと、それとももしかして嘘つかれてたりしてます?」 「や、この程度で嘘つく理由ねーし。」 ぱたぱたと片手を振るユーリに、ほっとする。 敵意は持たれていないようだ。 っていうか、自分で喋ってるのに声がやたら可愛い声だし、なんていうか、話し方もエステルに似てるような気が…するので、すごく妙な感じだ。 ユーリから見た俺はエステルと同じ顔の女の子、なわけだから別に違和感とかは感じている様子はない。 「あの、迷惑かけついでに、その…服とか、貸してもらえません…?」 「あー…エステルの服、勝手にいじるわけにもいかねぇしな…とりあえず俺の貸すわ。」 「うう、ほんとすみませんです…。」 「えっと、着替え終わりました。」 「ああ、こっち来てみ…」 「…?ユーリ、どうかしましたか?」 こちらを見て動きを止めたユーリ(さんはむずがゆいからやめろだそうだ)に、首を傾げて問えば、何故か額に手を当てて、大きくため息をついたようだった。 「…なんです…?サイズが大きい以外、特に問題はないと思ったのですけど…。」 自分で着ている服を見下ろしてみるけれど、別に普通である。 女の子の体のせいか、小柄なユーリの服でもちょっと大きいので裾をまくったりはさせてもらったけれど。 別に問題、ないよなあ? 「う…ん…」 「あ、エステルさんが起きましたよ、ユーリ。」 「みたいだな。…大丈夫か、エステル?」 「ユーリ…?一体誰とお話をし…」 ぼんやりとした様子でユーリに話しかけたエステルは、あたりを見渡したときに俺を見つけたのか、驚いたように目を丸くした。 「え?え?鏡です??」 「えと、違います…というか、服装と髪の色とかで気付いて欲しかったです…えと、ユリエスです。」 「あ、はい。私はエステルです。えっと…ユーリのお友達です?」 「え?えっと…」 「あー、そうなんだよ、偶然な。」 何と答えれば良いのか戸惑っていると、見かねたユーリが助け舟を出してくれた。 「そ、そうなんです!偶然ここで再会したんです。」 「すごい偶然ですね!良かったですね、ユーリ!」 「あ、あぁー…そうだな。」 ぱぁっと、まるで自分に嬉しいことがあったかのように笑うエステルは非常に可愛らしい。 ほんとこの子は真っ白だよなあ。さすがイメージがケーキの子だ。 「でも、ユーリのお友達が私とそっくりの顔なんて、ほんと、凄い偶然です。」 「まあ、世の中には三人は自分とそっくりの人が居るって言いますしね。」 「え?そうなんです?…じゃあ、もう一人の人と会ったら、素敵ですね!」 「そ、そうです?…さすがに3つも同じ顔があったら、ちょっと怖いんじゃ…。」 エステルの話し方がかわゆすぎたのでやった。後悔はない。 一応話の流れ的にはユーリ達の旅にくっついていく感じです。 ラピードがすごく…空気に………わ、忘れてた…。 |