<ファーストコンタクト>








屈強な男たちの中、一人だけ毛色の違う人間が居る事に気が付いた。
文字通り「毛色」が違う。
周りは皆、金、茶、黒などの髪の色ばかりの中、そいつは一人だけやたらに綺麗な銀髪をしていた。
こちらの視線に気付いたのか、そいつはこちらを振り返る。

―――驚いた。

その男は、整った造作をしていた。
北国の出身なのだろうか?
肌の色も白かった。あくまで健康的な白さだが。
男相手にその表現もどうかと自分でも思うが、そいつは確かに「美人」という表現がぴったりだった。
そいつの空を映した色の瞳が、確かにこちらを捉える。
僅かに首を傾げ、それから何かに気付いたかのように少し驚いたような顔をして、そいつはこちらに歩いてきた。
俺は驚きつつも、別に逃げることもないだろうとそのまま立っていると、ほどなくしてそいつは俺の元まで辿り着いた。

「あんた、『片羽』?」

口を開いたかと思えば、俺を特定するであろう単語。
何故わかったのだろうと、俺は首を傾げてから、ああ、と頷く。
へえ、とそいつは感心したような声を上げた。

「なんで分かった?」
「ん?あぁ、管制官の奴がさ、俺の二番機は『片羽の妖精』だって言ってたからな。」

俺の二番機―――それはつまり、この男は俺の一番機だという事を示していた。

「お前が?」

その思いは、思わず口をついて出た。
予測していたのだろう、男はくすりと笑って、ああ、と頷く。
男が上着を脱ぐと、確かに二の腕の部分に同じ隊章が縫い付けられているのが分かった。
俺の所属する部隊は二名の部隊だと事前に聞いていたので、間違いない。

「俺はCipher…サイファーだ。よろしくな。」
「俺はラリー・フォルク。TACネームはPixyだ。サイファーはTACネームか?」

何気ない俺の問いに男―――サイファーは苦い顔を浮かべた。
何か嫌なことでも言っただろうか?

「…TACネームだ。名前は………、だ。」

ひどく言いたくなさそうに、ぼそぼそと答えられる。

「…悪い、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか?」
「…コーネリア。コーネリア・ハイアライトだ。ちなみにちゃんとれっきとした男だからな間違えるなよ!」

一気に言いきって、サイファーはぷい、と視線を逸らした。
よく見てみれば、頬が微かに赤い。

コーネリア、というのは基本的に女の名前だ。
同じ語意なら男性名はコーネリウス。
それをあえて女性名のコーネリアとは…。
これまでも散々名前のことでからかわれたんだろう、なんて想像するのは容易かった。

「…苦労してるんだな。」

何と言えば良いのかわからなくて、言ったのは結局そんな言葉だった。
サイファーは深く頷きながら上着を着込む。
先ほど脱いだのは、俺に隊章を見せるためだったのだろう。

「あ、そうだ。飛ぶ前にあんたの機体見てみたいんだけど、良いか?」
「あ、あぁ、別に構わないが…。」

サイファーはそういう…他人の名声やら逸話やらに興味を持ちそうな雰囲気はなかったから、その質問には驚いた。
少し間が空いてから答える。
俺の答えにサイファーは嬉しそうに笑って、じゃあ行こうぜ、と先になって歩き出した。
やれやれ、とため息をつきつつ俺も後を追う。

サイファーの趣味が明らかになるのはこれからすぐ後のこと。

―――最初はマトモな奴だと思ったんだけどな。奴はとんでもない変人だったよ。

これが、後に『円卓の鬼神』と呼ばれるガルム隊一番機、サイファーと、その相棒であるガルム隊二番機、ピクシーこと『片羽の妖精』のファーストコンタクトである。





第一印象は「美人」
そう、ただ無言で立っているだけならば、奴は確かに「美人」なのである。

(2006/05/21)