<セカンドコンタクト>








格納庫に着くと、サイファーは目を輝かせた。

「F-15C…イーグル!良い機体に乗ってんな。」

サイファーはほう、とため息をついて、まるで恋でもしているかのように頬を上気させて俺の愛機を見つめる。
元々顔立ちが整っているせいか、目に毒だ。
他に誰も居なくて良かった。精神的に。

「イーグルの片羽に赤のペイント…うん、イイな…。」

物凄く満足そうに、愛機を見つめては頷くサイファー。
…名声やらに興味がなさそうだ、という分析は、当たっていたように思えてきた。

「サイファー…お前、変わってるな。」

俺の言葉に、サイファーはカッと目を見開いた。
―――また失言だったか?
先ほどの名前のこともあり、俺は不味いところを突いてしまったかと不安になる。
だが、サイファーの口から発せられたのは、想像してもいなかったような言葉だった。

「何を言うんだピクシー!このフォルム、この造形!これを"良い"と言わず何を良いって言うんだ!」
「…は?」

唖然とする俺に気付いているのか居ないのか、ヒートアップしていくサイファー。
というか、フォルムと造形って意味同じじゃないのか?
F-15がどれだけ素晴らしく、どれだけ造形が良くてどれだけ性能が良いのかなどをとくとくと説いて、サイファーは何かを思い出したかのように眉を寄せた。

「ああ…俺がヘマさえしなければ、俺のイーグルも此処に居たのに…!」

くっ、と心底悔しそうに拳を握るサイファーを、俺はただ呆気に取られて見ていた。
―――第一印象とはあまりにかけ離れた姿に、ただただ呆然と見ていることしか出来なかったのである。

「それは…その…災難だった、な…。」

俺がようやく口に出せた言葉に、サイファーは力強く頷いた。

「まあ、もちろん今乗ってるF-4に不満があるわけじゃないんだ。あれはあれで、性能は劣るが良いところもある。」

うんうんとひとしきり頷いた後、サイファーは再び俺の愛機、片羽を赤く塗ったイーグルに視線を戻した。

「イーグルに赤のペイントか…。素のままでも十分だと思ってたけどこれはこれで…。俺も次にイーグルに乗るときは赤くペイントしてみるか…。」
「おいおい、それじゃあ片羽が二機になるぞ?」
「確かに。せっかくのイーグルが同じ塗装は少し勿体無いな…。」

眉を寄せて、サイファーは辺りをきょろきょろと見渡した。
と、俺の方を見て視線を固定させる。

「どうした?」
「ガルム……地獄の猟犬か。」

俺の二の腕辺りを見ての言葉に、ああ、と納得した。
ガルムとは、神話に出てくる犬の名前だ。
そして、俺達二人のチームネームでもある。

「どうせならガルムらしく、両翼を青に塗ってみるか。」

ふむ、と呟かれた言葉に少し驚いた。
俺の表情に気付いたのか、サイファーはこちらにニヤリと笑ってみせる。

「読書は嫌いじゃない。」

その言葉に、俺は思わず笑っていた。

「ははっ、そうか…。―――俺も嫌いじゃない。」

―――サイファー、奴は変わった男だった。
機体の話になると見た目に反してひどく熱く語り始めて、止めるのに毎回苦労した。
まあ、そのうち放置するようになったけどな。





第二印象は「変人」
見た目と中身は大分違うと、心底思い知ったあの日。

(2006/05/21)