気付かない幸福って人は言うけど、あたしはちゃんと気付いてた。 両親が居て、友達が居て、それなりに満たされているこの生活が、とても幸せなことだって。 ああ、でもどうしてですか神様。 そのささやかな幸福に気付いていたあたしは、どうしてこんなところにいるのでしょーか。 そのへんちょっと、話し合ってみたいんですけど。 Awaking and escape - 彼らと出会う - と、意識を飛ばしかけたあたしは、こつん、という音でそちらを見た。 金色の髪に、虚ろな蒼い瞳の綺麗な少年の向こうに、黒髪に蒼い目の美丈夫。 クラウドに、ザックスだ。 ふふ…と虚ろな笑いを浮かべて再び意識を飛ばしたくなる。が、ぐっと我慢して、こつんとこちらも叩いて答える。 そう、何故だか知らないが。 本当に全く記憶にもなく。 学校帰りだったはずのあたしは、何故かFF7本編の始まる前…つまりはニブルヘイムの実験施設の実験ケースの中に居た。 (…これ、魔晄だよね…。なんであたし平気なんだろ…。) 夢、だろうか。 そうなのかもしれない。 こつんと反応を返したあたしに、ザックスは少し目を見張って、それから―――笑った。 (う、わ…) 嬉しそうに。 あたしなんて、彼からすれば全然知らない人なのに。 なのに反応が返ったことに、ただ嬉しそうに笑った。 太陽のような、笑い方。 きっと彼には、その笑い方がとても似合っているんだろう、と思った。 それからクラウドを指差し、自分を指差し、口が動く。 (え?何…?) 怪訝そうな顔をしたのに気付いたのか、ザックスはゆっくり口を動かした。 "逃 げ る ぞ" どくん。 (え、嘘、もしかしてもしかして…!?) 心臓が大きく跳ねた。 あたしは驚いた後に、頷いた。 ザックスは親指をグっと立てて、それからせぇの、と行動に移った。 ガッシャーン!! ガラスだかなんだかよくわからないが、ザックスの入っていたケースが壊れて、魔晄が流れ出す。 そして、あたしはひとつのことに気付いた。 ええ、今更。 あたし達、お互いに服を着てないってことに…!! (あわ、あわわわわわああああ!?) ザックスは音を聞きつけてやってきた研究員を張り倒し、近くのタンス(何故ここにタンス?)から服を取り出しさっさと着込む。 数着手にしてから、コントロールパネルに触ってあたしとクラウドのケースを開いた。 「っぷは…っ」 いくら魔晄の中で普通に呼吸が出来たからといって、この開放感に比べたら苦しいものだ。 魔晄は水とは違うのか、そもそも液体ではないのか、体が濡れた様子はない。 「ほら、これ着て。」 「え、あ、ありがとう…。」 ザックスはこちらを見ないように服を渡してくれた。 それを素直に受け取って、服を着込む。 ザックスは動けないクラウドに服を着せているようだった。 しばらく衣擦れの音が響く。 静かだ。 研究員が少なかったのだろうか?他に騒ぎに気付いた人は居ないようだった。 「よしっと。窮屈で少しくさいけど、まぁ我慢な。」 「あ、の…。」 「ん?」 あたしの掛けた声に、ザックスが振り返る。 (ひいい生ザックスだ) 「ここ、どこ…?」 「俺もここで気付いたからなぁ…内装から見ると神羅屋敷だろうとは思うけど…。」 「神羅…?」 あたしはきょとんとしてみせる。 そんなもの、知らないとでも言いたげに。 「お嬢さんもしかして、ニブルヘイムの人じゃない?」 ザックスの言葉に、ぞくりとする。 予測はついてたし、それ以外ありえないっていうのもわかってた。 でも、決定付けて欲しくなかった、こと。 「あ、たし…学校から帰ってる途中で…マンホールっぽい穴に落ちて…気付いたら、ここに、いて…。」 怖い。 急に怖くなってきて、あたしの体がかたかたと震える。 「や、やだよぅ…なんであたし、こんなとこにいるの…」 目頭が熱くなって、嗚咽が漏れる。 ザックスが困ったような顔になったのを見て、あたしはぐ、とこらえて涙をぬぐった。 「ご、ごめん…君に言っても、しょうがないよね…っ」 あたしはそう言って、わざと明るく言って見せた。 「あたし、っていうの。」 「…。」 「そっちは?」 「あ、ああ、俺はザックス。こいつはクラウド、俺の親友だ。」 気を取り直したようにザックスは笑う。 うん、困った顔よりそっちのほうがずっといい。 「それで…これからどうするの?」 「とりあえず…ここを出て、ミッドガルに行こう。」 「ミッドガル?」 「主要都市、みたいなもんかな…。あそこのスラムにでも潜り込めば滅多なことじゃ見つからない。」 そう言ってザックスはクラウドに肩を貸して立ち上がった。 そのまま出口に向かう背中を追いかけようとして、立ち止まる。 彼らと共に行って、良いのだろうか。 あたしは彼らの足手まといになる。 でも、それだけじゃない。 あたしは、怖いんだと思う。 彼らに見捨てられるのが。 出口を出かけて、ザックスがあたしに気付いて振り返る。 「おーい、?早く来いよ。」 「あたし…一緒に行って、いいのかな…?」 おそるおそる訊ねたあたしに、ザックスはあの太陽みたいな笑顔で答えた。 「当たり前だろ!大丈夫、俺が守ってやるよ。」 ほら、とザックスは空いていた右手を差し出す。 本当に、太陽みたいな人だと思った。 彼の言葉に、心が温かくなる。 あたしはその手をつかんで、彼らと共に逃げ出した。 はい、気付けば(いつのまにか魔晄漬けにされた)異世界トリップ。 カッコの中が恐ろしいですね!(笑顔) ツバサ夢主とはまた違くて、どっちかと言うと精神的に弱い子です。 これが腐女子と一般女子の違いなのだろうか…。 Next |