「ねえ、ザックス。」

それは、逃げ出してから数日が過ぎた日の夜。

「なんだ?」
「あたしに、戦い方を教えて欲しいの。」

あたしの言葉に、ザックスは驚いたように目を見開いた。




Awaking and escape - 逃亡生活 -



「冗談だろ?」
「冗談を言ってるように、見える?」

ザックスはううん、と唸る。

「なんかわかんないけど、こういう世界に来ちゃった以上、戦うこともあるかもしれない。それに今…あたし達、追われてるんだし。」
「それはそうだけどよ…。俺が守ってやるって。」

ザックスは優しい。
でもダメなの。

「それじゃ、ダメなの。」
「なんで?俺の実力、信用できない?」
「違う、そうじゃなくて…。」

あたしはふるふると首を横に振る。
なんて伝えればいいんだろう。

「守られてるだけじゃ、ダメだと思うの。あたしだって、戦うのなんか嫌だけど…でも、そんなこと言ってられない状況、だし…。」

ザックスは眉を寄せてあたしの言葉を聞いたあと、あー、と言いながら自分の頭を困ったように掻いた。

「…本気なのか?」

時々、見せるザックスの真剣な目。
その目をしているときのザックスは、いつものザックスとは違う。
だからあたしも、真剣に答えた。

「…本気、だよ。」

戦う人の目をしているザックスは、実はあんまり好きじゃない。
いつもの優しいザックスが隠れてしまって、なんだか怖いから。
もしも、あたしが戦うことがあるのなら…あたしもあんな目をするんだろうか。
ザックスは深くため息をついて、言った。

「…わかった。とりあえず大雑把な部分だけでも教えてやるよ。」

どこか呆れたような色が滲んでいたけれど。
その承諾の言葉に、あたしは隣に居たクラウドに抱きついた。

「やったー!クラウド、ザックスがあたしに戦い方教えてくれるってー!」

クラウドの目の焦点は合わない。
いつも虚空を見つめて、「ああ」とか「うう」とか言っているだけ。
それでも、あたしとザックスはいつもクラウドに話しかけていた。
ザックスは知らないだろうけど、あたしは魔晄中毒が周りのことを覚えてるっていうのを知っているから。

「おいおい、クラウド役得だなぁ、羨ましい。」
「クラウド、早く元気になると良いね。」
「ああ、そうだな…そうしたら楽しくなるな。」

ザックスは優しい笑い方でクラウドを見やる。
ねえ、クラウド。
ザックスは本当に、本当に良い人なんだね。
そう思う度に、胸が苦しくなる。
あたしはこの人が死ぬことを知っている。
少なくとも、あたしの知っている物語では、彼は死んでしまう。
あたしは、この人を助けることが出来るのかな…?

「クラウドが元気になったら、沢山話そう。楽しみだなぁ。」

どうか、あたしがザックスを助けられるように。
クラウド、君が元に戻ったときに、ザックスが傍に笑っているように。
そして出来れば、あたしも君達と一緒に笑っていたい。
あたしが恐怖で逃げ出さないように、見張っていてね。

「さーて、今日はもう寝ろ。」
「え、ザックスも寝ようよ。」
「お前な…」
「大丈夫、大丈夫!このへんには何の気配もしないし。」

そう、何故だか知らないが、あたしは気配察知の能力に異常に長けていた。
これも多分あの魔晄漬け(なんだか嫌なネーミングだ)のおかげ、なのだろう。
…ちょっと、変わった方式で気配がわかる、のだけれど。

「お前がそういうならそうなんだろうが…。」

ぶつぶつとまだ言っているザックスをクラウドの横までひっぱる。
こうしてクラウドを真ん中にして3人で眠るのがいつものことになっていた。

「ね、クラウド。元気になったら、一杯、一杯楽しいことをしようね。」

眠る前にあたしはそう囁いた。
一瞬、クラウドが微笑み返してくれた気がして、なんだか嬉しくなる。

「みんなで…笑おう、ね…。」

あたしは眠いまま、そう言って、すう、と睡魔に誘われるまま、意識を手放した。










自己紹介やらもいつの間にか済ませた後が2話目です。
はしょってスイマセン…でも普通に自己紹介しただけなのでいいかなーと…。
一応ザックスは夢主が異世界から来たっぽいことは理解してます。
でも気にしてない(笑)そういうイメージなんですよ、ザックスって。

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