神羅兵に見つからないように、慎重に気配を探りながらあたし達は森を歩いていた。
森を抜けると、目の前に砂浜が広がる。

「海…?」
「みたいだな。少し、休憩にしよう。」




An encounter "Before Crisis"- 不可思議な遭遇 -



ザックスの言葉にあたしは頷き、そのまま海に近づく。
しゃがみこんで手を水に浸してみる。
冷たくて気持ち良い。
なんとなくほにゃーっとした気分になっていると、不意に戦闘曲じゃないけれど、確かにゲーム中で流れていた曲が耳についた。
訝しく思って、辺りをきょろきょろと見回す。

?」
「なぁんか、誰か近づいてくる、っぽい…?」

首をかしげながらのあたしの言葉に、ザックスも怪訝そうな顔をしながら周囲に集中する。

「この気配…。」

ザックスは呟くと同時に、気配のした方向へと体を向ける。

「あっ!ザックス!?」
「ちょっと待ってろ!」

ザックスはあたしにそう言うと、そちらの気配のほうに走っていってしまった。
あたしは少し呆然としたあと、クラウドに話しかける。

「…ど、どうしようね、クラウド…。」

この気配と曲の感じからすると、多分敵じゃないと思うんだけど…。
でも曲が流れてきてるってことは、ゲームで出てくる人ってことで…。

「とりあえず、ザックスが戻ってくるまで待ってよっか。」

はは、と乾いた笑いを浮かべたまま、あたしは自己完結することにした。
本当は心配だけど、まぁ、多分大丈夫じゃないかなー、なんて思いがどこかにあったから。









、行くぞ!」
「あ、おかえりザックス。」

あれからしばらくして、ザックスが戻ってきた。
すぐさま行く、という言葉からして、あたし達を追いかけてきている人物だったんだろうか?

「神羅兵だったの?」
「いや…。」

あたしの言葉にザックスは言葉を濁すようにして視線を彷徨わせ。

「タークスだ。」
「タークス?」
「神羅の裏の仕事をやってる諜報員っていうか…まぁ、そんな感じだ。丁度俺の知り合いだったから少し話してきた。」
「その人も、あたし達を追いかけてきてる…の?」

ザックスは頷く。
話してきた、という表現から察するに、その人物とは戦闘にはならなかったようだ。

はて。
タークスといえば、あたしの記憶の中に浮かぶのはレノやルードだ。
だが、彼らの場合、戦闘になってしまう可能性が高い。
とすればイリーナだろうか?

あたしはクラウドを抱えたまま先を走るザックスの背を追いかけながら、考える。

いや、まてよ。

ふと、思い出すことがあった。
確か…携帯のゲームのほうで、こんなイベントがあったような気がする。
もっとも、あたしの携帯では対応していなかったから、せいぜいが感想サイトを回って得た情報なのだが…。
そういえば、あたしの携帯とかってどうなったんだろう。
こちらに来たのは学校帰りの途中だったはずだから、荷物と着ていた制服とかも一緒に来ていてもおかしくはないと思うのだけれど…。

って、ちがうちがう。

別の方向に思考がズレていくのに気付いて、あたしは頭を振った。
怪訝そうにザックスが足を緩めながら首を傾げる。

「どうかしたのか?
「あ、ううんーなんでもない!」

あたしがそう答えると、ザックスはそうか?と言って歩調を緩めた。
あたしもそれに合わせて、走りから歩きに変更する。
気付けば辺りはもう夜に差し掛かっていた。

「今日はこのへんで休むか…。」
「そうだね…。」

さっき人に遭遇したこともあるし、あたしは少し慎重に気配を探る。
うん、ひとまず曲も聞こえなければ人間の気配もしない。
ザックスはクラウドを木に寄りかからせるように座らせると、辺りをきょろきょろと見渡した。

「とりあえず、枯木でも集めてくるわ。はクラウドとここで待っててくれ。」

ザックスはそう言うと木々の奥に姿を消してしまった。
あたしは仕方なくクラウドの横に座り込む。
はぁ、とため息をつくと、息が白く染まった。
気温が低くなってきているのだろうか?
不思議なことに、あまり寒さを感じることはない。

「これも魔晄の力、っていう奴なのかな…。クラウドは寒くなーい?」

あたしは隣のクラウドを覗き込む。
ついでに放り出されていた手を握ってみる。
うん、あったかい。
ザックスが戻ってくる気配はまだない。
にぎにぎとクラウドの手を握ったりしていると段々と眠気が襲ってきた。

(そういえば今日は結構歩いたもんなぁ…)

そんなことを思いながら、あたしは重くなる瞼に抵抗することなく、瞳を閉じた。









ふわふわ。うとうと。

あたしの意識はぼんやりとそれを認識する。

きれいな、いろ。
ぎんいろとみどりのいろ。

それはただただ、あたしのまわりをうろうろしている。

だぁれ…?

ぼんやりと、あたしが紡いだ言葉にそれが何か反応を返すより早く…―――
あたしの意識は覚醒した。











と、いうわけでAwaking〜の合間にあった話でございます。
BC主人公との出会い編ですー、ええ。彼が活躍していなくとも!
それから微妙に伏線のある話…かもしれないです。
Awaking〜よりえぐい描写があるかもしれないので耐性ない方はやめといたほうが良いかもしれません。
今回の話は、ちょっと、賛否両論あるだろうな、と思うような話ですので…!

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