曲が聞こえる。 「…ん」 聴いた曲、だ。 覚醒したあたしに気付いたのか、焚き火の方を向いていたザックスが振り返る。 An encounter "Before Crisis"- 戦闘開始 - 「目が覚めたか?」 「ザックス…?あたし、眠ってた…?」 いまいち、あの謎な感覚が残っていて妙な感じだ。 あれは、なんだったんだろう。 「おう、モンスターに襲われてなくて良かったぜ。」 「もし襲われてたらいくらなんでも目が覚めるよ…。」 あたしの返答にザックスは笑う。 と、ずっと手を握りっぱなしだったことに気付いて、あたしはクラウドの手を離した。 「あちゃ、ごめんねクラウドー。」 うむむ、眠っている間に強く握ってなければ良いけど。 そんなことを心配しながら、あたしはクラウドの手をひっくり返したりしてみる。 大丈夫そうだ。 「クラウド…?」 不意に聞こえた第三者の声に、あたしとザックスは警戒を露にする。 あの不思議な感覚のせいで、ここまで近づいてきたのに気付かなかったことにあたしは内心舌打ちする。 でも、あれ?と首を傾げる。 聞こえていた曲は、いつもの戦闘曲じゃなかった。 どうしようか迷っていると、その人物が姿を現した。 赤い髪に、驚いたように見開かれた蒼の目。 少年期を過ぎて、青年期にさしかかろうかというような、幼さの残った顔立ち。 そして、黒いスーツ姿。 「アサギ!?来るなって言っただろう!」 彼の姿を目にして、ザックスが声を上げる。 アサギ? あたしは再び首を傾げる。 知らない名前だ。 ああでも、携帯のゲームだとプレイヤーによって名前が変更出来たような気がする。 「クラウドの様子がおかしい。それに、その子…」 どこか戸惑ったようなアサギ、という名らしい青年の言葉に、ザックスはこちらを肩越しに振り返る。 困惑気味にザックスを見返すあたしに少し眉を下げて、ザックスは彼に言う。 「魔晄中毒さ。それも重度の、な」 ザックスの言葉にアサギが目を見開く。 それから思案気に眉を寄せて、やや俯いた様子で呟くように訊ねた。 「…実験のせいなのか?」 「ああ」 ザックスが頷くと、彼は悲痛な顔になる。 なんだかあたしは可哀想になってきて、口を開く。 「えーっと、そんな落ち込まないで?」 声を掛けたあたしに驚いたのか、アサギは目を丸くしてあたしを見た。 そうして、最初の疑問を口にした。 「ザックス、彼女は…?」 ザックスはアサギに警戒するのをやめたのか、肩をすくめつつ答える。 「俺達と一緒。実験の被害者だよ。」 「どうも。気付いたら実験体にされてたといいます。宜しくー?」 とりあえず笑いながら自己紹介。 我ながらこんな物騒な自己紹介をするのは初めてだ。 アサギもそう思ったようで、やや引きつりながらも笑みを返してくれる。 「俺はアサギだ。よろしく…出来ると良いんだけどな。」 いっそ苦笑にも近いそれを浮かべられて、あたしとザックスも同じような笑みで返す。 微妙な空気になりつつも、やや和やかな雰囲気になりかけた時、ふと耳につく曲目が変わったことに気付いた。 今はまだ遠い、けれど。 「アサギ、神羅に連絡入れたりした?」 あたしの唐突な言葉に、アサギは首を横に振った。 嘘をついている様子はない。 ザックスはあたしの言葉に周囲を警戒する。 「どっちだ?」 「あっち。」 と、あたしはアサギが現れた方向から右側を指差した。 森の奥のほう。 「人数は多分10…いや、13人、かな…?」 「判った、お前らここで大人しくしてろよ?」 あたしの言葉にあっさり頷いて指示を出すザックスに、アサギは驚いたような声を上げた。 「ザックス!?」 多分、色々な意味を含めた声。 けれどザックスはひらひらと手を振っただけで森の奥に姿を消してしまった。 後に残ったのは、困惑した表情のアサギと、それを見ているあたし、それから木にもたれたままのクラウド。 「とりあえず、座ったら?」 あたしの言葉に、困惑した表情のまま突っ立っていたアサギが少し悩んだそぶりを見せた後に傍に座った。 「なんでアンタ、あんなことわかったんだ?」 アサギの言葉に、あたしは少し首を傾げる。 「あんなこと?」 「人の気配なんて、俺には全然わからなかったのに。」 ああ、さっきのことか。 あたしはうーん、と空を見上げ、それからアサギに向き直る。 「なんか、研究室から逃げ出してからそういう変な能力ついちゃったみたいでさ。」 「実験…か」 「多分ね。」 まさかゲームをプレイしてたから、なんて理由はないだろう。 少なくとも、ゲーム上でここらへんは語られては居なかったのだし。 何処かどんよりとした空気を背負ってしまったらしいアサギに、あたしは苦笑する。 「あたしさ、今まで刃物なんて持った事なくて…ただの普通の、何にも出来ない女の子だったのよ。」 唐突に言ったあたしの言葉に、アサギは首を傾げてこちらを見る。 「でも、今は少し実験に感謝してたりもするんだ。こういう能力がなければ、あたしはザックスに迷惑しか掛けられなかっただろうから。」 「…。」 「やっと、名前呼んでくれたね。」 あたしが笑ってそう言うと、アサギはあ、と口を開いたまま固まった。 あたしはそれにくすくすと笑う。 「あ…。」 不意に、曲が大きくなる。 「?」 訝しげに呼ばれる名前。 あたしは不意に立ち上がった。 「ザックス取りこぼし…。」 そう。 先ほど彼が突っ込んで行って、おそらくそれなりに派手にやらかしていただろう方角から、二人ほど脱線して、一人がこちらの方角に向かってきていた。 逃げようとしているのか、あるいはこちらの気配に気付いているのか…。 アサギも気配を感じたのか、立ち上がろうとするのをあたしは制する。 「あたし、行って来る。…アサギは、クラウドお願いしてもいいかな?」 「な…、、戦えるのか?」 困惑気味に問われた言葉に、あたしは腰に差していたナイフを抜き取る。 いつだったか襲ってきた神羅兵の持っていたものをザックスが奪って、あたしに持っているように言ったものだ。 専ら、あたしの戦術はナイフによるものになる。 「…人相手に戦うのは、初めてだけど。」 それを聞いて、アサギが立ち上がる。 「やっぱ、俺が行く。」 「ダメだよ、アサギってタークスなんでしょ?神羅兵に見つかったらヤバイもん。」 う、と黙り込むアサギを後ろに、あたしはクラウドの前にしゃがみこむ。 「あたし、行ってくるね、クラウド。出来るだけ早く、帰ってくるから。」 ね、とあたしはクラウドに微笑みかける。 その姿を見ていたアサギが、訝しげに訊ねてきた。 「なぁ…こっちのこと、認識してるのか?」 誰が、という主語が抜けているものの、指す人物は明らかだ。 あたしは首を少し左右に振って、答える。 「さぁ…でも、きっと、クラウドには伝わってると思う。」 それに、話しかけているほうが、早く治るような気がする。 「…でも、今のは違うの。」 「え?」 あたしの言葉に、アサギは疑問の声をあげる。 「あたしが恐怖で逃げ出さないように、その、宣言っていうか…誓い。」 そう、これは誓いのようなもの。 ね、クラウド。 あたしが逃げ出さないように、見張っていてね。 あたしは再び立ち上がると、気配の方に歩き出した。 タイトルが戦闘開始なのに戦闘シーンがない回です…。 もうすぐ戦闘開始!なイメージだったといいますか…! 本来のBCですと神羅兵との戦闘シーンはないですが、次の回で必要なので追加しました。 BC主人公はロッドになりました。こちらでは名前変換なしで"アサギ"という名前固定ですが…。 えーと、私が書き易いって部分もあるんですが、彼じゃないとこっちのことを目に見えて心配してくれたりしなさそうだなぁ、と思ったのでー。 要望がありましたら、名前変換できるようにしますが…。 Back Next |