「大丈夫かな…。」
「大丈夫だよ、クラウドが居るんだし。」

何故こんな会話をしているかといえば、少し時間を遡る。




Then,Seventh Story Started - 物語の始まり -



「魔晄炉の爆破?」

あたしの声に、バレットが重々しく頷いた。
ちら、と隣に座っているクラウドを見やれば、興味なさそうにパスタ(ティファ手作りの絶品だ)をつついている。
まぁ、これはいつものことなので、あたしは気にせずバレットに視線を戻した。
何も言わないってことは、受けるかどうかの判断はあたしに任せるってことだし。

「詳しい話を聞かせてもらえる?」

そう言うと、バレットは視線を彷徨わせた。
今更何を迷うことがあるんだろうと思ったが、そういえば、この時点で依頼料が足りないんだったような気もする。
どうごまかすか、あるいはどう言うか考えていたのだろうが、バレットは口を開いた。

「受けるか受けないか、決めてからにしてくれ。」
「じゃあ受ける。」

即答すると、クラウドが口に含んでいたパスタをぐ、と詰まらせるような気配がした。
どうやら驚いたらしい。
まぁ、神羅に目をつけられるだろうと判りきっているような内容であると予測できるようなことだったし、もう少し慎重に答えると思っていたのだろう。
でも、この話を受けないと、物語が始まらない。
どうやらバレットも、クラウドと同じくもう少し慎重に答えると思っていたらしく、目を丸くしてあたしを見ていた。

「…どうかした?」

でも、さすがにここまでの反応が返ってくるだなんて思わなかったので、少し驚く。

「い、いや。まさか即答されるとは思わなかったんでな。」

そう言いながら、バレットは口を開いた。

「目標は、街の北にある壱番魔晄炉だ。そこを爆破する。」
「爆破、ってどうやって?そんな大きい爆弾なんて…」

あたしの言葉にバレットは答える。

「ジェシーが作った。あいつはああいう機械モノが好きだからな。」

そう言われて、あたしは納得する。
確かに、二週間ほどここの人たちと接しているけれど、彼女はそういうハイテク関係が好きらしかった。
しかも神羅の情報網にハッキングしてたりなんかするらしい。
そんな腕前を持ってるのに、なんだってスラムに居るんだか…。

「なるほど…ジェシーなら、確かにやりそう。それで、決行日は?」
「明日だ。」

思わず絶句する。
いやまぁ、これまでだって、ここに滞在しながら何でも屋の仕事をいくつかこなしてたりしたし、明日から宜しく、というものがほとんどだったけれど。
こんな大きなイベントの依頼も前日なのか…。
あたしは嘆息しながら、クラウドを見た。
クラウドはいつの間にかパスタを食べ終え、水を口に含んでいた。
その碧の双眸があたしを呆れ混じりの色で見やる。

カタン、

カップをテーブルに置いて、クラウドは口を開いた。

「…俺は別に構わないさ。それに、そろそろここを離れようと考えていたところだ。」
「そういえばそんなこと言ってたね…。」

あたしは答えて、そのやり取りを振り返る。
確か、ここじゃあ何でも屋って言っても雑用係のようなものだし、別の街やスラムに行くのも悪くない、とかなんとか。
そのときは確かティファの料理が運ばれてきて結局うやむやのままに終わったんだったけれど。

「だから、この依頼は丁度良い。区切りとしてな。」

そんなことを言って、クラウドは肩をすくめた。









そこまで思い出して、あたしはふう、と息をついた。

「そういえば…この仕事が終わったらここを離れるって、本当?」

ティファが、少し寂しそうに聞いてくる。

「この仕事が本当に最後かどうかはわからないけど、そろそろ違う場所に行ってみようかっていう話があるのは本当。」
「そっか…。寂しくなるなあ。」

目を伏せて答えるティファの姿は、なんというか、捨てられた子犬並だ。
でも、物語通りに進むのなら、彼女とも一緒に出ることになるのだろう。

「クラウドだって本決まりじゃないだろうから、もう少し居て欲しいってティファが言えば滞在期間も延びるかもね。」
「え?」

きょとん、と目を瞬かせるティファに、あたしはくすりと笑みで返す。
瞬間真っ赤になったティファがパクパクと口を動かした。

「なっ、な、な何言ってるの…!からかわないでっ!」

もう、と言いながら、ティファは火照った頬に片手を添える。
その姿は年上とは思えないほど、可愛らしい。
ファンが居るのも頷ける。
ティファは普段はお姉さんっぽいけれど、こういうときは物凄く可愛らしいのだ。

「そう言うこそ、どうなのよ?」
「どうって、何が?」

ティファの問いにあたしは首を傾げる。

「だから、クラウドのことよ。そもそも、貴方って、一体どこでクラウドと知り合ったの?」

クラウドのこと。

「どうって…弟、みたいな感じかなあ…。」
「弟?」

あたしの答えに、ティファは驚いたように目を見開いた。
確かにクラウドのほうが年上なんだけれど。
ただ、今の元気なクラウドよりも魔晄中毒だった頃のクラウドと行動した時間のほうが長いから、余計にそう思うのかもしれない。

「あたし、守れなかったから。だからせめて、クラウドだけは守ろうと思ったの。」

知っていたのに、助けられなかった。
ならばせめて、彼の親友であったクラウドだけでも、不確定な未来から守ろうと思った。

「守れなかったって、誰を?」

ティファの言葉にどう答えたものかと思案したとき、外からがやがやと見知った声が聞こえてきて、あたしは視線をそちらに向けた。

?」
「あたしを助けてくれた人。」
「え?」

きょとん、と目を丸くしたティファに、あたしはひそりと微笑んだ。
このお話は、今はここまで。
その意味合いも込めて、立ち上がる。

「ただいま〜。」

カランカラン、と店のベルを鳴らして最初に入ってきたのはビッグスだった。

「あ、お帰りビッグス。クラウドは?」
「もうすぐ来るんじゃないか?ほんと、あいつってティファとくらいとしかまともに会話しないよなー」

否定出来ないのが悲しいところだ。でも、あたしというイレギュラーの居るせいか、ゲームのときよりはアバランチの面々とは良好な人間関係を構築していっている。と思う。

「クラウドは人見知り激しいから…。」

あたしがそういうと、ビッグスは肩を竦めてみせた。
やれやれ、というジェスチャー。

「ま、それはわかるけどなー。ありゃあ、周囲に無駄に敵を作るタイプだぜ。」
「っていうか、ビッグスだって最初クラウドのこと嫌ってたじゃない。」

そうなのだ。
今はもう懐かしいとか思ってしまう数週間前、つまりあたしがここセブンズヘヴンに運び込まれたその当日。
成り行きでアバランチの補助を手伝うことになって顔合わせした時に、ビッグスはクラウドに難癖をつけて喧嘩に発展してしまったのだ。
クラウドもクラウドで、ビッグスが口にした女顔だとかそんな言葉にプチっとキレて喧嘩に発展。
その後はなんだかんだと気付けばそれなりに良好な関係になっている。
男って不思議だ。
殴り合いの喧嘩で友情が生まれるって本当だったんだ、などと見当違いに感心してしまったものだ。

「たっだいま〜疲れた〜」
「お帰りジェシー。なにか飲む?」

ティファの言葉に倒れこむように椅子に座ったジェシーはこくこくと頷いた。
続いてウェッジも入ってきて、同じようにティファに飲み物を頼む。
こちらはジェシーと違ってアルコールだ。
ついでに、先程から水を飲むようにビッグスがなにかを飲んでいるが、あれもアルコール。
弱いのに好きなんだから、不思議だ。

「…とうちゃん…?」

ううむ、と首を傾げながら考えていると、店の奥から控え目な少女の声。
さすがにこの深夜ともなると、子供は眠くなるので今まで寝ていたのだろう。

「もうすぐ来るよ。おいで、マリン。」

手招きをすれば、とてとてとこちらに歩いてくる。
こちらもまた、あたしの知っているゲームと違い、比較的あたしにもクラウドにも懐いてくれている。
ぽんぽんと膝を叩けば、ぽすん、とあたしの膝の上にマリンが座る。
ここ最近のマリンの指定席だ。

カランカラン、

店の入口からだれかが入ってくる。

「とうちゃーん!」

マリンはあたしの膝からぴょんと飛び下りてその人物に抱き着こうとする。
が、それは寸前で回避された。
すべらかな金糸の髪に不思議な色合いの碧の目。
整った顔立ちは未だ何処か幼さを残しているせいか少女めいている。
本人的には物凄く不本意らしい。
綺麗なんだから良いじゃない、とはあたしやティファの弁。本人に言うと怒るので言わないが。

「クラウド、お、お帰りなさい…。」

もじもじとマリンが言えば、飛び付かれかけて少し驚いた様子だったクラウドは頷いて、軽くマリンの頭を撫でた。
うむ、慣れたものだ。
マリンも慣れて来たとは言え、さすがにこの美人相手には未だに照れを隠せない模様。
まあ、こんな美人じゃ仕方ない。
あたしもまた、彼に視線を向けて微笑む。

「おかえり、クラウド。」
「ああ、ただいま…。」

いつもの無表情を僅かに和らげて、クラウドは頷いた。









静かな夜の、大きな出来事。
たくさんの人の命ごと破壊された魔晄炉。

―――…そうして、七番目の物語が幕を開ける。











あ、れ…?この回で二つ目の依頼の話まで終わらせようと思ってた、のに…?
相変わらず計画が生かされてないです。_| ̄|○|||
今現在での夢主さんから見たクラウドは「弟」だそうですよ奥さん(誰だ)
(2006/02/03)

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