「あら?お花なんて珍しいわね。」

ティファの言葉に、あたしはクラウドがポケットに入れていたらしき花に気付いた。
此処で花を持ってきているということは、クラウドはエアリスに出会ったのだろう。

「スラムじゃ滅多に咲かないのよ。」
「ふーん…クラウド、一体何処で見つけてきたの?」

あたしがそう尋ねると、クラウドは少し迷ったように視線を宙に彷徨わせた。




Then,Seventh Story Started - ソルジャーと一般人 -



「戻ってくる途中で花売りに押し付けられたんだ。」

視線をこちらに戻して、クラウドは憮然とした様子で答える。
押し付けられた?
その単語に、あたしとティファは顔を見合わせる。

「買ったんじゃないの?」
「結果だけ見れば買ったことになるが…。」

クラウドは、額に手をあてて、はあ、とため息。
よっぽど強引な売り方をされたのだろうか?

「でも、捨てないでちゃんと持ち帰ってきたんだ?」
「…金を払ったものを、むやみに捨てられないだろ。」

ぶすっとした様子で答えてくるけれど、実際のところ、クラウドはお人好しなのだ。
手に入れた経緯はどうあれ、裏のないものを捨てるような無神経ではない。
クラウドはポケットから取り出した花をしばし見つめて、無造作にあたしに差し出した。

「?」
にやるよ。俺が持ってたってどうしようもない。」
「あ、ありがとう…。」

思わずきょとんとしてから受け取って、花を見る。
素朴で清楚な印象を受ける、小さな花。
5、6本ほどまとめてひとつの花束になっているのがまた可愛らしい。
生憎花瓶はなかったので、コップに水を注ぎそこに入れておくことにした。
これで少しは長持ちするだろう。

カランカラン、

店のベルを鳴らして入ってきた人物に、マリンは今度こそ走り寄る。

「とうちゃん、お帰り!」

抱きついたマリンを受け止めながら、入ってきた体躯の良い男―――バレットはただいまと答えて相好を崩す。
やっぱり娘には甘いみたいだ。

「お疲れ様、バレット。」
「おう!」

ティファの言葉に威勢良く返事を返して、バレットはアルコールやらなにやらを飲んでいたほかのメンバーに視線を向けた。

「お前ら、会議を始めっぞ!」
「はーい。」
「りょーかい。」
「うぃっす!」

そのままバレットはマリンを肩に乗せたまま、地下へと降りていく。
ジェシー達はそれぞれ口々に返事を返して、バレットの後に続いた。

「会議、かあ。あたしも行った方が良いのかな?」

地下への入口を見ながら首を傾げてあたしが言えば、クラウドは怪訝そうに片眉を上げて答える。
器用だな、なんて思う。

「それはあいつらの仕事だろう?別にが行く必要はないさ。」

そう言ったクラウドに、あたしは今度は振り返ってもう一度首を傾げた。

「でも、報酬まだ貰ってないんでしょ?いいの?」
「…あ。」

どうやら完全に忘れていたようで、クラウドは一瞬行動を止める。
それから視線を下に落としてぶつぶつと「…だからあの時に…」とかなんとか呟いた。

「クラウドも帰ってきたばっかだし、とりあえずあたしが話してくるね。何か飲んで少し休んでから来てよ。」
「あ、おい、!」

後ろからのクラウドの呼びかけに答えることなく、あたしは地下への入口になっている装置を起動させた。
物語の細かい部分はもう何年も前にやっていたきりだったので忘れてしまっているが、確かここでの会話は印象深かったように思うし。
特に問題ないのなら、あえて物語を改変しようと足掻く必要はないだろう。

―――まるで、創造主きどりだ。

気付いて、自嘲気味に笑う。
そんなつもりはなかったのだが、確かにそう言えばそうかもしれない、なんて思っているとすぐ下の地下に着いた。

「あ、!」
「どうしたの、ジェシー?」

声をかけてきたジェシーの方を見れば、彼女は部屋の角に置いてあるTVを指差す。

「見てよ、このニュース…こんなに爆発しちゃってる。コンピュータの指示通りに作ったのに…迂闊。どこかで計算間違えちゃったかな…。」

眉を寄せて、難しい表情でTVから視線を外し、ジェシーはパソコンに向き直った。
低く唸りながらなにやら難しい数列が並ぶ画面を呼び出し、深くため息をついたあと、こちらを見た。

「…でも、ちょっと嬉しいんだ。私の爆弾の初舞台だし。」
「…そう、だね。次は計算間違わないように注意しなくちゃね。」

答えに戸惑って、あたしはなんとかそれだけ返した。
そんなあたしにジェシーもまた苦い色を帯びた笑みで返して、再びパソコンの画面に視線を戻す。
あたしは何処かでほっとしながら、部屋の奥に居たバレットに話しかけた。

「バレット、報酬のことで話があるんだけど…。」
「う、ほ、報酬かよ…。」

目に見えてバレットは肩を強張らせた。
どうしたものかと視線が彷徨っている。
これじゃああたしだけじゃなくてクラウドも騙せないよ…。
あたしは気の毒になって、苦笑する。

「ねえ、バレット。報酬のこと…考えてなかったでしょ?」

あたしの言葉に、バレットは今度こそぴしりと動きを止めた。
その正直さにはやっぱり苦笑を禁じえない。

「クラウドは高額って条件で請け負ったみたいだけど…こんなこと言っちゃうとあれだけど、無理でしょう?」
「うぐ…。」

痛いところを突かれたかのようにバレットが黙り込む。
マリンの視線がちょっと痛い。
別にいじめてるわけじゃないのよ…!

『…しかし、ミッドガル市民の皆さん、安心してください。われわれ神羅カンパニーでは、このような暴力から皆さんを守るためにソルジャーの投入を決定しました。これで……』

耳に入ってきたのはテレビのニュース。

「ソルジャー…か。」

ぽつりと呟いたあたしに、バレットは思い出したかのように言う。

「そういや、今回戦ったやつ等の中にはソルジャーは居たのか?」
「居ないんじゃない?」

あ、しまった。
これは確かクラウドと口論になってたような…。
まあ、口をついて出てしまったものは仕方ない。

「何でお前に分かるんだよ?一緒に行ったわけでもないのに。」
「そりゃあ…ソルジャーが居たら、多分人数減ってるだろうし…少なくとも、どれだけ運が良くても怪我ひとつしないで帰ってくるのは無理だよ。」

元々このアバランチは戦闘向きな人種が少ない。
戦闘職だとしても、所詮一般人だ。魔晄を浴びたソルジャーと出会えば無傷では居られないと思う。
これ、体験談。うん。

至極まともなことを言ったつもりだったのだけれど、やっぱりというかなんというか、あたしの返答はバレットの機嫌を損ねてしまったらしい。
怒鳴られはしないが、物凄く不機嫌そうな表情になってる。

ああやばいどうしよう、と思っていると、ガーっと自動装置が動いてティファとクラウドが降りてきた。
微妙な空気に二人して怪訝そうな表情(クラウドはほとんど表情が変わってないけど)になる。

「一体どうしたの?」
「えーあー、やーそのー…。」

ティファに訊ねられて、あたしはうろうろと視線を彷徨わせて言葉に詰まった。
どうしよう、これ、言っていいのかなー。
ちらりとクラウドを見やれば、一体何やってるんだお前、と言わんばかりの視線がこちらを射抜いた。

「その、ね?今日行ったときにソルジャーって居たのかなーって話になって、あたしが居なかったんじゃない?って言ったら、そのう…ね?」
って今日は私と店に居たわよね?」

はてな?と首を傾げるティファにあたしはますますへらりと笑う。

「だ、だって、ソルジャーと遭遇してたら多分人数減ってるか運が良くても怪我人は居ただろうなーって…。」
「多分じゃなくて確実に人数減ってるだろ。」

ああ、さらりと言っちゃったよクラウドってば!

「お前等…自分が元ソルジャーだからって偉そうに言うんじゃねえよ!」
「ちょ…あたしはソルジャーじゃないわよ!一緒にしないで!」
「っう、わ、悪かった…ともかく!確かにおまえは強い。恐らくソルジャーってのはみんな強いんだろうさ。でもな、お前は反乱組織アバランチに雇われてる身だ。神羅の肩を持つんじゃねえ!」
「神羅の肩を持つ?俺とはあんたの質問に答えただけだ。俺は上で待っている。報酬の話がしたい。」

気分を害されたようで、クラウドはそれだけバレットに言うと背を向けた。
その背に、ティファの声が掛けられる。

「待って、クラウド!」
「ティファ、そんな奴放っておけ!どうやら神羅に未練タラタラらしいからな!」

バレットの言葉はクラウドの心の琴線に触れたようで、普段余り表情を出さない顔に怒りの表情を露にして言い捨てた。

「黙れ!俺は神羅にもソルジャーにも未練はない。でも、勘違いするな。星の命にもお前たちアバランチの活動にも興味はない!」

行くぞ、とあたしの腕をがっしと掴んで、クラウドは自動装置まで歩いていく。
あたしは成り行きを見守っていた皆とティファ達にごめん、と声に出さずに謝ってクラウドと共に地下を後にした。











副題が浮かびませんでした…_| ̄|○|||
あ、あれ?また二回目の依頼までいかなかった…。
(2006/11/10)

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