夜明け独特の涼やかな空気に、あたしは眠りから覚めた。

「…いよいよ、だね。」

誰にともなく呟いて、ぐ、と拳を握る。

今日起こるのは、第五魔晄炉の爆破―――そして、彼女との出会い。




Then,Seventh Story Started - 魔晄炉へ -



身支度を整えて、一階へと降りてみると、まだ時間が早かったらしくティファが一人で準備をしていた。

「おはよう、ティファ。」
「あ、おはよう、。」

あたしが声を掛けると、ティファは振り返ってにっこりと笑った。

「ティファ、昨日は急にヘンなこと言ってごめんね?あたしも自分でよく分かってないから、昨日言ったことは気にしないで。」
「え、あ、うん、分かったわ。」

ティファは少し戸惑った様子だったけど、こくりと頷いてくれた。
昨日は本当に何も考えないでぽっと出た質問だったから、これで忘れてくれると助かるのだけど。
そんなことを考えていると、クラウドがやってきて、そのうち皆が集まり、まずは駅へ行くことになった。
その駅への道中、バレットに呼びかけられてあたしは振り返った。

「どうしたの?」
「クラウドの奴にマテリアの使い方ってのを教えてもらったんだが…よくわかんねぇんだよ。お前さんならもうちょい分かりやすく話してくれるかと思ってな。」

そう言って、バレットは"ほのお"のマテリアをあたしに見せた。
どうやらクラウドに渡されたらしいが、バレットらしい組み合わせだ。

「えぇと…まず、武器とかバングルとかに装備するっていうのは、わかるよね?」
「おう。」

あたしの言葉にバレットは頷く。

「この、マテリアを嵌める穴は独立したものと連結したものがあるの。で、独立したものはそのままなんだけど、連結したものに嵌める場合…えーと、たとえば"ほのお"と"ぜんたいか"を嵌めるとするじゃない?そうすると、"ほのお"のマテリアを使うときに"ぜんたいか"の効果も付随されるの。」
「はぁ…で、どうやって発動すりゃいいんだ?」

バレットの問いに、あたしは自分のマテリアに触れる。
どうやって発動するか、なんて、特に考えたことなかった。

「魔力を溜める…って言ってもよくわかんないだろうから、そうだなぁ…まずはイメージ、かな?」
「イメージ?」
「うん。"ほのお"だったら、自分の頭の中でまず火を思い浮かべるの。そして、マテリアに意識を集中させて、自分の中の魔力をマテリアに集めれば発動出来るはずだよ。」
「…わかったようなわかんねーような…。」
「…まぁ、マテリアの使い方なんて理論より実践だから。慣れるしかないんじゃない?」

何処か納得のいかない様子ながらもバレットは頷いて、ありがとよ!と言って先へ走っていった。
走ったところで列車の時間は変わらないのだけれど…まぁ、バレットらしいと言えばらしい行動なのかもしれない。









「…さて。」

列車に乗り込んだところでバレットは口を開いた。
他のメンバー…ビッグスやウェッジ、それにジェシーは前もって話を聞いていたのか、列車に乗り込んですぐにバラバラと散っていってしまっていた。
…バレットはバレットで、乗り込んで早々神羅社員らしい男の人と騒ぎを起こしそうになっていたのだけれど、ティファがすぐに怒って何も起こらずに済んだのだ。ティファつよい。

「ジェシーから聞いただろうが、上のプレートとの境界には検問がある。列車ごとIDをスキャンするシステムだ」
「神羅自慢のね。」

ティファが付け加えるように言う。
個人個人のIDをスキャンするという機能は、皮肉を抜きにしても確かに高性能だ。
というか、こういう機能は元々あたしが居た世界でもまだ存在して居なかったはず。
…この世界は、高性能な部分と、そうでない部分の落差が激しい。

「いままでのニセIDはもう使えねえ…。」

と、バレットが言ったところで、列車のアナウンスが入った。

『本日もご乗車ありがとうございます〜。四番街ステーション到着予定時刻はミッドガル時11時45分〜』

がたん、と一度大きく鳴って、それからすぐに列車は走り出した。
アナウンスを聞いて、ティファがこちらに振り返る。

「ID検知エリアまであと三分ってところね。」
「よし、あと三分経ったら列車から飛び降りる。いいな!」

バレットの言葉にあたし達は頷いて、ティファに手を引かれた。

「ティファ?」
、クラウドも、こっち!路線図モニタでも見てよう?」

そう言って、ティファに手を引かれて見たのは彼女の言葉通りに路線図のモニター画面。
これもまた神羅らしく高性能なグラフィックだ。
あたしはそもそもこの世界で列車に乗るのはこれが初めてのことなので、これを見るのも初めてだ。
クラウドは以前に見たことがあったらしく、これか…と言いたげな顔でついてきた。

「あら、クラウドはもう何度も見たって顔してるのね。…まぁ、いいわ。ほら、こっち来て。」

ティファはそう言うと、画面の中の路線図について分かりやすく説明してくれた。
と、不意に警告サイレンが鳴り響き、列車内が暗くなる。

「おかしいわね。ID検知エリアはもっと先なのに…。」

首をかしげながらティファが呟けば、それの答えとばかりに車内アナウンスが響いた。

『A式非常警戒態勢を発動。列車内に未確認のIDを検知。各車両緊急チェックにはいります。繰り返します…』
「未確認ID…?」

あたしが呟けば、近くまで来ていたジェシーがげっ、と言わんばかりに顔を歪める。

「まっずいことになっちゃったわ。説明はあと。早くこっちの車両に!」
「チッ、しくじりやがったな…!」

バレットは舌打ちすると、あたし達の方について来いと言って次の車両へと向かっていった。

『車両1に未確認ID検知。ドアロック準備』
「行くぜ!もたもたすんな!」
!急ぐぞ!」

二人の声にあたしは頷いて、皆の後を追いかける。
次の車両に移れば、危機一髪という感じですぐにドアがロックされた。
それにほっとして、それからすぐに前を見た。
まだ警戒態勢は解かれていない。

『車両1ロック完了。警戒レベル2に移行。車両2に未確認ID検知。ドアロック準備。』
「急ぐんだ!」
「扉ロックされるっす!」

ビッグスとジェシーの言葉に頷いて、再び次の車両へと走り出す。

「とにかく、走って!作戦2にチェンジよ!」

次の車両に着けば、やっぱりあたし達の後を追うようにドアがロックされた。
今のところ脱落者が出ていないのは幸いだ。

『車両2ロック完了。警戒レベル3に移行』
「よし、抜けたか?」

バレットの問いに、ジェシーが首を振って答える。

「まだよ。すぐ次の検知が始まるわ。ばれたらアウトよ!でも、前の車両に順々に移っていけばやりすごせるわ!」
『未確認IDは列車前半部に移動中。現在位置の再確認に入ります。』

ジェシーの言葉に皆で頷いて、前の車両へと再び走り出した。

『車両3ロック完了。警戒レベル4に移行』

アナウンスが追いかけてくるのが、やけに焦りを発生させてくれる。
身体能力の向上した今のあたしならどうということはないのだが、やっぱり焦るものは焦る。

『車両4ロック完了。警戒レベルMAXに移行。』

一番前の車両にたどり着いて、あたし達はほう、と息をついた。

「よしっ、うまくいったな!」
「そうみたいね。」

あたしが頷くと、バレットは早速列車のドア(?)部分を開け放って宣言した。

「おう、こっちだ、行くぜ!こっからダイブだ!」

ちなみに、当然列車はまだ走っている。
常人ならかなり危険なのだけれど…バレットに臆した様子はない。
まぁ、バレットだし。
ティファは、というと、外を見て、それから不安そうに視線をさまよわせていた。
うん、これが普通の反応だよね。
なんだか妙に納得してしまったけれど、今のこの時点ではティファのような普通の反応よりもバレットのような図太い感じの反応のほうがありがたいかもしれない。

「あれ?ウェッジ?」

あたしがふと声を掛ければ、近くに居た神羅の服の人物がくい、と帽子を上げた。
中身はやっぱりウェッジ。

「わかるっすか?へへ、作戦ばっちり成功っすね。関係ないですけど、この格好、俺の弟にそっくりなんすよ。今頃どうしてるかなぁ…。」
「へぇ、弟さんが居るんだ?元気で居るよ、きっと。」
「そうっすかね?そうだと良いんですけど…。」

そう言って、ウェッジは再び神羅兵のふりで列車の奥へと行ってしまった。
それを見送って、記憶の中をたどってみる。

…たしか、最近(あくまでこちらの世界に来る前の最近)出ていたゲームの中で彼の弟は出てきていたはず。
ここでの会話をすっかり忘れていたあたしは、彼に弟が居たということにびっくりしたっけ。

、次はお前が飛ぶ番だぞ。」
「え?」

クラウドの声に振り返れば、いつの間にやらティファは飛び降りたらしく、クラウドとバレットがこちらを見ていた。

「ティファ一番にとんだの…!す、すごい…。」
「何でも良いから早くしろ。」
「う、わかった。」

あたしはすぅ、はぁ、と息を整えて、意を決して飛び降りた。









―――とりあえず、魔晄のちからってすごい。すごかった。こわかったけどすごかった。うん。










タイトルが…ギリギリ「魔晄…炉?」ですね…苦しまぎれの魔晄炉「へ」です(苦笑)
最初「魔晄炉」だけだったんですが、書いてったら魔晄炉まで辿り着かなかったので…。
あ、あとマテリア解説は管理人の頭の片隅にあった「これで合ってるっけ?」という非常に曖昧な知識ですのでもしかしたら違うかもです。
(2008/2/7)

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