「クラウド…ってば!」 「っ…!」 あたしの腕を強く握って上の階まで来たクラウドに、あたしは腕を振ることで非難を示した。 あたしの様子に、ずっと前を向いていたクラウドははっとしたように腕を放す。 「あ…、わ、悪い、…。」 その決まりの悪い様子に、あたしは小さく息をついた。 Then,Seventh Story Started - 約束 - 「確かに、あたしも神羅好きじゃないし、前のこともあるし、気持ちはわかるけど…バレットはあたしのことも、クラウドのことも、何も知らないんだからあんな言い方したら駄目だよ。」 「じゃあ、はあんなこと言われて黙ってろって言うのか!?」 「それは…、」 確かに、バレットは触れちゃいけないところに触れてしまった。 だからあたしは口ごもる。 あたしは元々神羅とは関係ないから耐えられるけど、昔神羅に入っていたクラウドにとって、先程のバレットの言葉は辛いことだ。 「…大丈夫だよ。クラウドが神羅に未練なんかないって、あたしがちゃんと知ってる。あたしの味方になってくれたあのときから、あたしは何があってもクラウドを信じるって決めたんだから。」 「…。」 「それだけじゃ、やっぱり、不満、かな?」 おずおずとクラウドを見れば、クラウドは首を振り、少し気まずそうに視線を逸らす。 「…いや…、俺も、悪かった。つい、カッとなって…。」 「ううん、大丈夫。…バレットだって、悪い人じゃないんだし、きっとわかってくれるよ。」 あたしがそう言うと、地下に続く出入り口の方からぱたぱたと足音が近づいてきた。 「!クラウド!」 奥から現れたのはティファで、ティファはあたしとクラウドの姿を見つけると、ほっとしたように息をつき、真剣な目であたし達を見て口を開いた。 「お願い二人とも、力を貸して。」 「ティファ…。」 「星が病んでるの。このままじゃ死んでしまう…。誰かがなんとかしなくちゃいけないの。」 「バレット達がなんとかするんだろ?俺達には関係ないさ。」 クラウドの言葉に、ティファは眉を下げる。 それから芝居掛かった仕草でくるりと後ろを向いた。 「あーあ!本当に行っちゃうんだ!かわいい幼馴染の頼みも聞かずに行っちゃうんだ!」 「………悪いな。」 「…約束も忘れちゃったんだ。」 「約束?」 ティファの言葉が気に掛かったのか、クラウドはわずかに首を傾げる。 後ろを向いていたティファは、くるりとこちらに向き直り、不満げに顔を歪めた。 「やっぱり忘れてる。思い出して、クラウド…。あれは7年前、…ほら、村の給水塔、覚えてる?」 「給水塔…ああ、あのときか。ティファ、なかなか来なくて、少し寒かったな。」 納得したように頷いて、クラウドは懐かしむように少し苦笑を浮かべた。 クラウドの言葉を聴いて、ティファは嬉しそうに顔を綻ばせる。 「思い出してくれたみたいね、約束。」 「約束って?」 「ああ…俺とティファが幼馴染だっていうのは、前に話したよな?」 「うん、聞いたよ。」 あたしが頷くと、ティファが少し照れくさそうに続ける。 「クラウドが、ソルジャーになるって村を出るって話を私にしてくれた時に、クラウドが有名になって、その時私がピンチになったら助けに来てって約束したの。」 「へぇ…。」 あたしが感嘆の声を上げてクラウドを見れば、居心地悪そうにクラウドが身じろぎをした。 「…なんだよ。」 「いや、まさしく乙女の夢な約束を、クラウドがしたんだぁーと思うと、ふぅーん…。」 一応、"知っている"事ではあるけれど、やっぱり改めて聞くとなんだか不思議な気持ちだ。 なんというか…いったいどういう顔でクラウドはティファを呼び出したんだろう、とか。 「…妙な想像するな。」 「うっ…。」 しっかり釘を刺されて、あたしはその思考を停止させた。 ちょっと愉快な想像になりそうだったので、止められたのは良かったのかもしれない。 クラウドはそんなあたしの様子にため息をついて、ともかく、と口を開いた。 「俺は英雄でも有名でもない。約束は…守れない。」 「でも、子供の頃の夢を実現したでしょ?ちゃんとソルジャーになったんだもの。だから、ねっ、今度こそ約束を……」 「おい、ちょっと待て!ソルジャーさんよ、約束は約束だからな。ほら、金だ!」 奥から歩いてきたバレットは、未だ何処か不機嫌そうではあったが、お金の入っている袋をクラウドの方に投げてきた。 それを難なくキャッチしたクラウドがあたしに目配せをしたので、あたしは苦笑しつつ頷いた。 「こんなしけた報酬、冗談じゃないな。」 「え?…それじゃ!」 「次のミッションはあるのか?倍額の3000で請けてやってもいい。」 本当は受ける気満々な癖に、クラウドは本当に素直じゃない。 クラウドの言い方にむっとしていたバレットも、ティファに宥められて、2000だ!と告げてまた奥に引っ込んでしまった。 あたしとティファはその様子に思わず顔を見合わせて笑い、ティファは嬉しそうにクラウドに微笑んだ。 「ありがとう、クラウド!」 明日のミッション―――五番魔晄炉の爆破に備えて皆がそれぞれ寝静まっただろう時間帯。 あたしはなんだか寝付けなくて、ぼんやりと廊下の窓から外を眺めていた。 「約束…かぁ…。」 ぽつりと呟いて、目を閉じる。 脳裏に浮かぶのは、あたしが最も頼り、守ることが出来なかった彼―――ザックスのこと。 約束をしていたわけじゃなかった。 でも、いつも、まるで口癖のように、彼は「俺が守ってやる」って言ってくれたから。 その言葉と共に、彼の太陽のような笑顔が思い起こされて、胸が苦しくなる。 「守ってくれなくても…生きていてくれれば、それでよかったんだよ…。」 小さく小さく呟いた言葉は、自分以外の誰の耳に入ることなく、するりと指の間をすり抜ける砂のように深夜の暗闇に消えていく。 キィ… 小さく扉の開く音が聞こえて、あたしは振り返った。 何処かまだ寝ぼけた様子で、ティファが怪訝そうにきょろきょろと廊下を見て、あたしを見つける。 「…?」 「どうしたの、ティファ?」 「うん…なんだか、目が覚めちゃって。そしたら廊下の方から何か聞こえてきたような気がして開けてみたの。」 は?と逆に問われて、あたしはうーん、と首を傾げた。 「ティファと似たような感じ、かな。あたしの場合は単に寝付けなくってぶらぶらしてたんだけど。ごめんね?起こしちゃったみたいで。」 「いいわよ、気にしないで。それより、何か心配事でもあるの?」 「心配事…?どうして?」 「えっ、えぇと、ほら、眠れないときって、何かしら心配事があるときが多いかなって思って…。」 ティファは慌てたように手をぱたぱたと振る。 それを見ながら、あたしはティファの言葉を考えてみた。 心配事。 明日のミッションについては心配することもないだろう。一応あたしもついていくつもりでいるし。 ザックスのことは…心配じゃなくて、これは後悔だ。 ほかに…何かあっただろうか? 「特に思いつかない、かな。自分で気付いてないだけかもしれないけど。」 「そっか…それなら良いの。なんだか逆に不安にさせちゃうようなこと言っちゃったわね。」 「そんなことないよ。心配してくれたんでしょ?…ありがと。」 あたしがそう言えば、ティファは照れたように微笑んだ。かわいいなあ。 「さて、そろそろ寝ないと朝が大変そうだから、寝るね。」 「あ、うん。私も寝直すわ。」 あたしはティファに手を振り、自室として使っている部屋へと足を向けかけ…ふと、よぎった問いを口にした。 「ね、ティファ。」 「ん?」 同じように、自分の部屋へと帰りかけていたティファが振り返る。 「ティファは子供の頃、クラウドがソルジャーになって、有名になって、そんなクラウドに助けてほしいって思ったんだよね?」 「まぁ…そう、ね。」 「それって、ソルジャーじゃなくちゃ、だめなのかな。」 「―――え?」 あたしの言葉の意味を捉えかねたのか、ティファはきょとんとした表情であたしを見た。 なんだか急に気まずく感じて、先程のティファのように慌てて手を振る。 「っあ、ご、ごめん、やっぱり忘れて!あたし、もう寝るね、おやすみ!」 「あっ、!?」 驚いたようなティファの声を背後に、あたしは自室に駆け込んだ。 パタン、 なるべく音を立てないように閉めて、ドアにもたれてずるずると座り込む。 「…なに、言ってんだろ、あたし…。」 夜明けはまだ、―――遠い。 やっと二回目の依頼まで行きました…!な、長かった。 なんだかナーバスな主人公ですが、次に持ち越さないのでご安心を(笑) (2007/10/5) Back Next |