さん、おかえりなさい。」

電話から戻ってみれば、ふわふわと笑うさくらが出迎えてくれた。

「ただいま、さくら。」

それににっこりと笑顔で返して、あたしは笙悟が来る旨を彼らに伝えた。










Story by which you touched - 彼女と羽根 後編 -










しばらくして、笙悟がやってきた。

「あ、笙悟!こっちこっち!」
…お前なぁ…。」

笙悟を呼ぶあたしに、笙悟はまったく、とでも言いたげにため息をつく。
失礼な。

「それで、話ってのはなんだ?」

あたしの後ろに立っていたリーダーに、笙悟が訊ねる。
リーダーは真剣な表情で、腕を組んでいた。

「…俺は今日限り、チームを解散してカタギに戻ることにした。」
「なんだと?」

リーダーの意外な言葉に、笙悟が眉を上げる。
それを気にすることなく、リーダーは言葉を続けた。

「縄張りはお前にくれてやる、好きにしてくれ。」
「一体、何があったんだ?」

訝しげな笙悟に、リーダーはふ、と笑みを浮かべる。

「そいつは言わねぇ。あの子のことは誰にも言わねぇって、決めたんだ。」
「あの子…?」

その言葉に笙悟はちらりとあたしを見たので、あたしは彼に首を横に振った。
彼らを変えたのは、あたしじゃないし。
笙悟にも伝わったのか、彼は一度首を傾げて、リーダーの笑みを見て、不意に笑った。

「…そうか。」

「ボス!大変っす!!」
「どうした!?」
「さくらちゃんが…あそこに!」

駆け込んできたチームメンバーの指差した先には、高い鉄の骨組みの上を歩くさくらの姿。

「さくらちゃん…!?」
「ちょっと目を離した隙に、急に居なくなったと思ったらあんな所に…!」
「お前、一体何してたんだ!」

声を荒げるリーダーの視線を追ってさくらを目にした笙悟は何処か納得いったかのように頷いた。

「そうか、あの子が…。」
「笙悟、行ってあげて。」

あたしの言葉に笙悟は少し驚いたような顔をして、それからニッと笑みを浮かべた。

「任せとけ!」

そう答えると同時に片手を上げ、水の巧断を呼び出す。
それに乗った笙悟がさくらの居る鉄骨へと向かうのを見送りながら、あたしはどうしたものかと考えた。

「うーん…これ以上あたしが居ても何も変わらないだろうしな…帰ろ。」

うん、と頷いて、あたしは帰宅の為に踵を返す。

「あ!なぁ、アンタ!」
「?」

背中に掛けられた声にあたしは振り返った。

「どうしたの?」
「いや…その、アンタにも世話になったな。」

照れくさそうな笑みでそう言われて、悪い気はしない。
あたしはつられて笑った。

「どういたしまして。」






















とぼとぼと一人、夜の倉庫の間を歩く。
不思議と心細いだとか怖いだとかいう感情はなくて、なんと言えばいいのか。
そう、子供の頃にわくわくしながら夜道を歩いた、あの感覚。
思い至って、あたしは思わず苦笑した。

あたしはどこぞのガキですか。

いやまあ、一応まだ10代なんだから、子供といえば子供の範囲でしょうけど。
誰にともなく弁明しつつ、空を見上げればふわりとあたたかな風。

「さくら…。」

先程の鉄骨の方向に視線をやれば、ふわりと空に浮かびながら、すうっと目を閉じるさくらと、少し驚いたような、けれどすぐに苦笑の表情を浮かべた笙悟の二人の姿が見えた。

ふと、うっすらと目を開けたさくらと、視線が交わる。

「え…?」

驚いて、あたしはぽかんと口を開けたまま立ち尽くした。
瞬きをしてみれば、さくらはやっぱり目を閉じたまま。
見間違い、だろうか?
それにしてはやけにはっきりと目が合ったな、と思ったのだけど。

頭の中に疑問符を大量に浮かべつつもさくらを見ていると、不意にさくらを取り巻く淡い光が消え、さくらの体が落下を始めた。

…あれ?

何か忘れているような気がして、あたしはきょろきょろとあたりを見渡した。

ちょっと待って。
なんで小狼達が来てないの!?

そうこうしていても、さくらの落下のスピードが下がるわけでもなく。

「っイリューザー!さくらを助けてっ!」

カァッと体が熱くなる。
現れた蒼の狼はあたしの指示の通りに、落下するさくらの元へと駆けていく。

あたしはそれを追いかけて、走った。






















落下地点では、どうやら間に合ったらしい小狼がさくらを姫抱っこしていた。
イリューザーもまた、小狼達の傍で大人しくしている。
あたしを見つけたのか、イリューザーは再び蒼い光になってあたしの体に吸い込まれるようにして溶け込んだ。

「さくら!」

あたしが駆け寄ると、小狼達の視線がこちらに向いた。
うわあ、気まずいぞ。
でも今は、それより先に気にしなければならないことがある。

「さくら、大丈夫?怪我とかは…」
「大丈夫だと思います。今は…寝ているだけです。」

さくらの顔を見ながら、小狼が答えてくれる。
その答えにほっとして、あたしは息をついた。

「って、小狼、敬語。」
「あ…すいませ、じゃなくて、ごめん!」

あたしに指摘されて、小狼は慌てて謝った。
うむ、相変わらず素直な反応。

ちゃんはどうしてここに?」
「どうして、って…えーと。」

あたしはファイに説明しようとして今日の出来事を振り返る。

「ご飯前に散歩してたらさくらが不良に絡まれてたんで助けて、その後昨日笙悟といざこざ起こしてた二人組にお好み焼きに誘われてお好み焼きを食べて、それでなんかここに来る事になってさくらと一緒に来て?」

ざっと話してみたが、なんというか、計画性の欠片もないな、と思わず自分で思ってしまうくらいだった。
ので、最後が疑問符付きだったのは致し方ないことだろう。

「で、さくらが鉄骨の上に乗ってて危ないっていうんで笙悟が上ってったら、なんか二人が仲良く飛んでたからぶらぶらしてたところでさくらが空飛んで落下したので助けに来たところ。デス。」

なんだか色々とややこしいようなそうでないような。
何処か呆れたような、胡乱気な視線をこちらに寄越す黒鋼から逃げるように目を逸らす。

「お前な…。」
「う、その先は言わないで。あたしも自分で説明しててあまりの計画性のなさに絶句したところなんだから…。」

「これって…本当の羽根…。」

少し驚いたような小狼の声。
振り返ってみてみれば、さくらの胸元にはホンモノの羽根があった。

「その子が言ってたぜ。」

「笙悟!」
「笙悟さん!」

あたしと正義くんの声が被る。
笙悟はあたしに片手をあげることで答えると、続けた。

「その子、お前の仲間だったんだな。」
「さくらは、さくらはなんて言ったんですか!?」
「自分の羽根を捜す…そう言った。」
「羽根を…。」

小狼は笙悟に向けていた視線をさくらに戻し、そんな小狼を見た笙悟は小さく息をついた。

「お前との勝負、次に会うときまでお預けだ。帰るぞ、!」
「あ、はーい!それじゃ、またね!」

笙悟の声に答え、あたしは小狼達に別れの挨拶をすると彼の後ろを追いかけた。






















そろそろ、覚悟を決めなければならない。
この居心地の良い世界との決別を。






















長らくお待たせしました13話後編ようやくお届けです…ッ!(土下座)
は、はやく夢主をばんばん出したい…っ!

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