しばらく走って、あたしは違和感に首を傾げる。
そのあたしに気付いたのか、ザックスが振り返った。

「どうした?」




Awaking and escape - 既知の未来と -



「なんか、変…。」

そうだ。
あたしは、何か忘れてないか?
曲は鳴り止んでない。
それどころか。
より、強く…?
あたしはそれに気付いて、慌ててザックスを突き飛ばした。

ガウンッ!!

っ!?」

ザックスをかばって撃たれたあたしに、ザックスは驚愕の目を向けた。
あたしはそんなザックスに、痛みに、恐怖に負けないように叫ぶ。

「行って!!っクラウド連れて逃げて!!」
「馬鹿言うな!」

躊躇するザックスに、あたしは一度だけ振り返る。

「…お願い。」

弾は心臓の近くを掠めていった。
どくどくと流れていくあたしの命。
血の気を失っているだろうあたしに、ザックスは泣きそうに顔を歪め、頷いて走り出した。
ありがとう、とあたしは言葉にならない息で言って、神羅兵に向かい合う。

「悪いけど、もう少しあたしと遊んでもらうわよ。」

なるだけ不敵に見えるように、あたしは笑う。


頑張れあたし。
ここを、乗り切らなきゃ。


ザックスに教えてもらったのは、本当に基礎の部分だけ。
たった二週間でこれだけできれば上出来過ぎると言われたけれど、あたしは刃物を持つのも、人に向かって振り上げるのも初めてだった。


本当はとても怖くて仕方ない。
でも、選べというのなら、あたしは。


撃たれたのは胸なのに、体が痛みを訴えてくる。
あたしは顔を歪めながら、ナイフを振るう。
肉を絶つ嫌な感触。
体温と同じ温度の赤い液体。
人を傷つけるということ。
人を殺す、ということ。


あたしは、殺されるなら、殺してでも生き延びる…!



「っふ…!」

あたしが足止めしていた神羅兵を倒しきって、ようやく息をつく。
傷の痛みのせいか、感覚がおかしくなっていることに気付いた。
おかしいな。


ここを乗り切って。


気配は感じるのに。


そうしたら。


曲が、聴こえない。


そうしたら、3人で一緒に…―――



ガウンッ!!

「っ…!!!」

大きな銃声。

あたしにとっては…不吉な予感をもたらすもの。
あたしは傷の痛みも忘れて、ザックス達が走っていった方へ足を走らせた。



「…ダメだ、死んでる。」
「こいつはどうします?」
「重度の魔晄中毒か…どうせ治らないんだ、ほうっておけ。」



そんなやりとりが耳に入った。
あたしは、この場面を知ってる。
頭に血が上りすぎて、逆に冷めてくる。
たった2週間くらいしかあたしは彼らを知らないけれど。
こんな扱いを受けて良い人じゃ、なかった。
怒りと悔しさに、目の前が熱くなる。
守れなかった。
助けられなかった。
どうして…なんであの人を殺したの。

「っぁあああああああああああああっ!!!」

あたしは耐え切れずに叫んで…ナイフを構えた。
怒りに身を任せて、その衝動のままに神羅兵に向かってナイフを振るう。
あたしがナイフを振るう速度の速さに、空気が悲鳴を上げた。
生ぬるい感触がしたと同時に破裂音がたち、何が起こったのかわからない、という表情のまま、神羅兵の胴体と頭が二つに分かれて、血飛沫を上げる間もなく崩れ落ちた。
その姿を見ることなく、あたしはもう一人にそのままの勢いで斬りかかる。

赤い服の神羅兵。
こいつが指揮官だ。
こいつが命じた。

「っあたし達は…っ自由に生きたいだけなのにっ!!!」

あたしの両目から零れる涙にか指揮官の男が目を見張り、…―――あたしのナイフが、その心臓を貫いた。
その衝撃で指揮官の男の体はびくりと跳ね、そのままがくりと体から力が抜けた。


あたしはそこで我に返る。
血に濡れたまま、男の心臓を一突きしているあたしの右腕。
硬く握り締められたナイフ。


「あ、たし…?」


愕然とした意識の中で、視界に入ったのは、座り込んでいるクラウドと、倒れているザックス。
ずる、と崩れ落ちる男の体と共にナイフを放り出し、あたしはザックスに近づく。

「ザックス…?」

彼は動かない。

「…死んじゃったの…?」

いつでも、何かしらの表情を浮かべていた彼は、動かない。

「ザックス…っあ、たし…っ」

彼の傍で、あたしはぺたりと座り込む。

「君が居ないと…、あたし、どうしていいか、わかんないよ…っ」

漏れそうになる嗚咽を耐えて、あたしはクラウドに視線を移す。

「クラウド…あたし、ザックス守れなかった…ごめん、ね…。」

涙が、あたしの頬を伝って、ザックスに触れた瞬間。

パ…ァ…ッ

「え…?」

優しい碧の光が、ザックスの体を包んだ。

「ザックス…?」

呆然とするあたしの頬を、優しい風が大丈夫だよ、とでも言いたげに撫でて…次の瞬間には、ザックスはどこにも居なかった。

「え…?」

あたしはザックスの居た場所を見つめる。
彼の流した血と彼の愛剣は、残っている。
けれど、彼が、目の前から消えてしまった。

「いまの…なに…?」

あたしはただ呆然と、そこに座り続けた。










痛い話で申し訳なく…ッ!!
ひたすら皆が不憫です。ザックスもクラウドも夢主も一般兵も指揮官兵も。
神羅兵、まさか女の子に一撃で殺されるなんて思ってもいなかっただろうに…。
夢主がこんな馬鹿速い攻撃とか馬鹿力発揮したのは、火事場の馬鹿力ではなく。
魔晄漬けによってソルジャーとかと同じような強化人間になっちゃってるからです。
ラストのザックスが消えたのは後々の設定上の演出。
実際のゲームでは消えませんよ(笑)

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