あれからしばらくして、あたしは我に返った。
このままここに居ても、神羅兵達がまたやってくるに違いない。
ザックスの愛剣…バスターソードをつかんで、あたしは立ち上がった。

「…クラウド、行こう。」




Awaking and escape - ミッドガルへ -



すっかり乾いた血をぱりぱりとはがしながら、あたしはクラウドに肩を貸し、片手にはバスターソードをつかんで歩いていた。
傍から見たらものすごい映像だなぁ、なんて心のどこかで思う。
けれど、幸か不幸か、ミッドガルの外を出歩いている存在は何も無かった。
モンスターにさえ遭遇しなかったのは幸福だと思わざるを得ない。

「っ痛…」

撃たれた箇所が痛んで、あたしは立ち止まる。
それから呼吸を整えて、また歩き出した。

あの戦闘で、ひとつ気付いたことがある。
どうやらあたしは、魔晄漬けされたお陰で馬鹿力かと思うくらいの力持ちになってしまったらしい。
気配察知能力もあるし、この世界で生きる分には良いことなんだろうけど、なんだか複雑だ。
こんな能力を持っていたって、あたしはザックスを助けられなかったのに。

「…はぁ…。」

どうにも気が滅入る。
ザックスを包んだ光はなんだったんだろう?
なんでザックスは消えてしまったんだろう?
それとも、ソルジャーは死んだら遺体はライフストリームに還ってしまうんだろうか?
…考えても、答えは出ない。
あたしはまた泣きそうになっている自分に気付いて、ぐしぐしと目を拭った。
クラウドだけでも助けよう。
そう、決めたのだから。
ミッドガルまで着いて、あたしは門を見上げた。

(そういえば…ゲートキーが必要、なんだっけ…?)

あいにく、そんなものは持っていない。
あたしはバスターソードとクラウドと門に寄りかかるように預けて、うーん、と門の上を見上げた。

「…いける…かなぁ…?」

門の高さは大体3〜4mくらいだろうか。
前のあたしならば即座に無理、と言っていただろうが、今のあたしの身体能力なら、もしかしたら。
あたしはとりあえずクラウドを背負って、少し離れた場所から助走をつけて跳んだ。

タンッ!

一歩踏みしめて、門の上に手が届く。

「っと、ぉ…ッ!」

一瞬クラウドの重さに後ろに倒れそうになりながら、なんとか門の上にたどり着く。
見てみれば、どうやら門の奥はスラム街…それも、人の住んでいない区域のようだった。

「はは…魔晄万歳っていうか…今回ばかりは感謝だね…。」

あたしは乾いた笑みを浮かべながら、今度は門の中の方に飛び降りる。

ダンッ

「っ〜〜〜〜!」

あたしの体重とクラウドの体重、それから重力によって生じた重さにびりびりと痛みが走る。
ついでに傷も少し開いたみたいな感覚。
思わず涙目になる。

(あうう…でもまだバスターソード取って来ないと…。)

あたしは近くの瓦礫の隙間にクラウドを寄りかからせて、ちょっと見ただけじゃわからないようにしてから、再び門の方に助走をつけて跳んだ。
そして再び、バスターソードを担いだまま、スラムの街に飛び降りる。
先ほどクラウドを隠した場所まで歩いて行き、クラウドの前でしゃがみこむ。

「さて…これからどうしよう、クラウド…。」

適当に入ったから、ここがどこだかわからない。
少し歩き回ればわかるかもしれないけど…。
近くまで誰かが近づいてきた気配がして、あたしはバスターソードをクラウドの前に突き立てて、そちらの方を伺った。
柄の悪そうな人物が、一人。
気配は二つ感じたので、その奥のほうにもう一人が居るのだろう。
こちらに気付いた気配はない。
と、奥のほうの気配が何かに気付いたのかこちらに居た一人を呼びよせ、小さく誰かの悲鳴が上がった。

(女の子…ッ!?)

驚いたような声は確かに女の子の声で。
あたしはクラウドをちら、と見て、それからすぐに駆け出した。

「…………。」

小さく、クラウドの目に光が灯ったことに気付かないまま。










夢主馬鹿力すぎます。
次回はようやく!クラウドが喋りますよ。

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