戻ってみると、そこにはクラウドとアサギが居た。
あたしはほっとして、張り詰めていた緊張が僅かに解れたことに気付いた。




An encounter "Before Crisis"- それぞれの道へ -



!良かった、無事だったんだな…!」

あたしを見つけてアサギはほっとしたような笑みを浮かべて立ち上がった。
なんだかんだとクラウドと一緒に居てくれたことと言い、ザックスが信用…いや、信頼していた様子から言っても、彼は良い人のようだ。

「うん、ただいま。ザックスは…」

と言いかけて、気配を探る。
ザックスのものらしき気配が、こちらに向かってきている。

「もうすぐ来るみたいだね。」

アサギはそうか、と頷いて、再び座る。
あたしもまた座って、焚き火を見つめた。
なんとなく、場に沈黙が下りる。
おそらくアサギは何があったのか聞きたいのだろうけれど、あたしの様子を見て口を閉ざしてくれたようだ。
もし聞かれたら、あたしはまた泣き出してしまうかもしれない。
だから、その心遣いは有難かった。
それほど長い時間そうしていることはなく、がさがさという草を掻き分けてくる音で、あたし達はそちらを見た。

「ただいまー」
「おかえり。」

いつものようにザックスはやれやれ、と言って空いている場所に腰掛ける。
ああ、変わらない、と思う。
あたしが人を殺してしまっても、彼はなにも変わらない。
ザックスが通ってきた道には、あたしが殺してしまった神羅兵の死体があったはずだ。
そして、ザックスならば、神羅兵を殺したのが誰か、傷口から判断して判っているだろう。

…もしかしたら、だからこそ、何も態度を変えないのかもしれない。

ふと、アサギのほうを見てみれば、彼はなにやら真剣な表情で焚き火を見つめていた。
あたしはぼんやりとそれを見る。
すると、アサギは「よし!」と呟いて、おもむろに立ち上がった。

「アサギ?」
「どうかしたのか?」

訝しげなあたしとザックスの声に、アサギはこちらを見る。

「俺、ニブルヘイムに行ってみる。」

突然の言葉に、あたしとザックスは一瞬顔を見合わせて、それからアサギを見た。
彼はあたし達の視線に気付いているだろうに、懐から携帯電話を取り出し、電話を掛けた。
何をしようとしているのかわからず、あたしとザックスはそれをただ見つめる。
どうやら相手が出たらしく、アサギが口を開く。

「ツォンさん、ターゲットに逃げられました。」

ターゲット、とは、おそらくあたし達のことだろう。
あたしとザックスは再び顔を見合わせる。
もしかして、庇ってくれてる…のだろうか?
その間もアサギは電話の相手―――先ほどの言葉から、あたしも知っているタークスのツォンだろう―――と話を続けていた。

「ツォンさん!聞いて下さい!」

アサギが声を荒げる。

「俺は見てきます。あの研究室で何が行われたかを!」

そう、半ば一方的に言い切り、アサギは電話を切った。
仮にも上司にその反応はまずいんじゃないかなーとか、ちょっと思ったり。
でも、それ以上に、嬉しかった。

「アサギ…。」

ザックスの声に、アサギはこちらを見て、笑った。

「そういうことだ、気をつけろよ。」

そう言うと、アサギはニブルヘイムへ向けて歩き出した。
その背中に、ザックスとあたしは声を掛ける。

「アサギも、気をつけて!」
「ありがとうな、アサギ!」

アサギは一度首だけ振り返り、笑って、手を振った。

アサギは真実を見る為に、ニブルヘイムへ。
あたし達は、自由の為に、ミッドガルへ。
行く道は違えど、今日出会えたことは、決められたルールの中のことだけじゃないと、あたしは信じたい。
それぞれの道へ、あたし達は歩いて行く。

それから、なんとなく沈黙を保ったままあたし達は焚き火を見つめていた。
パチパチと炎が木を燃やしていく音を聞きながら、ザックスが口を開いたのはそのときだった。

…何が、あったんだ?」

その言葉に、どくりと心臓が鳴るのがわかった。
ザックスを見れば、彼にしては珍しく申し訳なさそうな顔をして、こちらを見ていた。

「あー、その、予測はついてはいるんだけど、なんつーか…。」

頭をかきながら、彼は続ける。

「…ごめん、俺が逃がしたせいだな。」
「っちが!ちがう!」

あたしは思わず声を上げていた。

ちがう、ザックスのせいなんかじゃない。
あたしが選んだ。あたしが殺した。
どれだけ弁明の言葉を並べたとしても、これだけは変わらない。

あたしは息を整えて、言う。

「ザックスのせいじゃないよ。あれは…あのひとを、殺した、のは、あたしが選んだの。あたしがそれを選んで、他でもないあたし自身が殺した。」

あたしは選んだ。
これからの旅で、少しでも危険性の低くなる道を。
確かにザックスが逃がさなければ、あたしは人を殺すこともなかったと思う。
でも、あの神羅兵がこちらに向かってきたとき、身を潜めて隠れるという選択肢だってあったはずなのだ。
あたしはそれをしなかった。
だって、もしクラウドが狙われたら?―――クラウドは動けない。
アサギの姿を見られたら?―――タークスという職業に就く彼が見つかれば、彼ら自身も危険になるかもしれない。
―――だから、あたしは自分で殺すという選択肢を選んだのだ。

「後悔はしない。しちゃ、いけない。どうしようもなく、どうしようもないくらいに重いけど、これは、あたしが背負わなきゃいけない重さだと思う。」

ザックスは、真剣な表情であたしの言葉を聞いていた。

「だから、もし誰かのせいだというのなら、それはあたし自身のせいだよ。」

あたしがそう言い切ると、彼は大きくため息をついて、空を仰いだ。

「あーあ、参った!」
「…?」

あたしが首を傾げると、ザックスは苦笑を浮かべてこちらを見た。

「ほんと、立派だよ、お前。そこらの兵士なんかより、よっぽどな。けど…」

ザックスは、そのままぐい、とあたしを引き寄せる。
ザックスの肩に額を預ける形になったあたしの頭を、彼は優しく撫でた。

「ザックス…?」
「受け止めるのも、認めるのも大事なことだ。それがなくなっちまうと、ダメになる。でも、何も全部を背負うことなんかねーんだよ。」

ザックスは笑う。

「泣きたいときは泣けばいい。我慢なんかすることない。弱音だって何だって、俺が全部受け止めてやる。」

そう言って、撫でてくれているその手は、あのときあたしの頭を撫でただれかの手にも似て、ひどく優しくて。

「っ…」

視界が歪むのを感じた。
後悔はしちゃいけない。したりしない。
でも、でも…―――!

「…っ殺したくなんか、…なか、ったよ…っ!」

そうだ、本当は、殺したりなんかしたくなかった。
あたしはその思いを、ザックスの言葉で、認めることが出来た。

本当は、怖いよ。
ずっと、怖くて堪らない。

でもその恐怖は、あたしが一人で抱えなきゃいけないと思ってた。
恐怖も不快も、全部全部あたしが一人で、外に出したりしたらいけないって、思ってた。
でもザックスは言う。
我慢など、しなくて良いのだと。

全てを頼るなんてことはしない。

でも、今だけ。
今だけは…まだ、弱いあたしをさらけ出して構わないだろうか―――?

ザックスは、嗚咽を漏らすあたしの頭を、ただただ優しく撫でてくれていた。
あたしはその手の温かさに、再び涙を零した。

いきているひとの、温度だった。

あたしもザックスもクラウドも、いきている。
これからも、いきていく。

あたしはザックスの温かさを感じながら、ただ、泣き続けた。











BC主人公とお別れ、そして夢主の責任宣言(のようなもの)。
自分の中でどれだけ認めようとしても、そう簡単に認められないと思うんですよ。
ザックスだって、初めて人を殺したときに同じように苦しんだと思うんです。
弱い人は他の何かに責任を転嫁してしまうけど、そうじゃない人は、そうはいかない。
だからこそ、ちゃんと自分の責任だと言い切った夢主は立派だよ、という台詞になったと。
BC主人公と絡み少なくてすいませ…っ!
BCキャラもFF7本編の時に何かしているってわかれば今後も出せるんですけどね…。
現段階ではなんとも言えないので…ACにも居なかったし…。LOは出てたのにな…。
いや、きっと何か別行動だったんだと信じていますが!

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