やがて泣きつかれたのか、静かに寝息を立て始めたを、ザックスはそっとクラウドの隣に座らせた。
木にもたれて、は静かに眠っている。

「…ごめんな。」

それは、自然に漏れた謝罪の言葉。
彼女は自分のせいではない、と言ってくれたが、それでも、ザックスは自分を責めずにはいられなかった。




An encounter "Before Crisis"- 夜明け -



ザックスはクラウドをはさんで反対側に座り込んだ。
木に背中を預けて、未だ明けない空を見上げる。

逃がしてしまったのは、確かに自分のミスだったのだ。
そして、が行ったことは…確かに、正しい対処だと、思った。
もし逃がしてしまえば、神羅兵が無線を持っていた場合、居場所を報告されてしまっていたかもしれない。
もしクラウドが狙われれば、や、あの時傍に居たアサギが庇いきれたかわからない。
そしてもし、アサギが神羅兵に見つかれば、タークスがこちらの逃亡を補助していると取られてしまっていたかもしれない。
どれを考えても、より早い段階で神羅兵を沈黙させることが、もっとも効率の良い手段だったのだ。
2、3日昏倒させるという手段もあるが、それは並の人間に出来ることではない。
まして、戦う術さえここ最近でようやく学び始めたに、それを求めることなど出来はしない。

ただ、それでも。
戦う術も学んだこともなく、人を傷つけたことさえないに、人を殺させてしまったことは。
が自ら戦う術を望んだこととは言え、ザックスの心に重しを乗せたことに変わりは無かった。

だから、正直驚いたのだ。
彼女があれほどまでに、きちんと受け止めていることが。
いや、受け止めようと、しているということが。
彼女は、ザックスが思っていた以上に強いのかもしれない。

そこまで考えて、ザックスは未だ静かに眠るを見て、それからクラウドを見た。

「な、クラウド。もし、俺に何かあったらお前が…―――」

言いかけて、ザックスは苦笑しながら首を振る。

「…やめた。縁起でもないこと、言えないもんな。」

そうして焚き火に視線を戻し、ぱちぱちと炎のはぜる音を聞きながら、ザックスは仮眠を取るために瞼を下ろした。









そこは、白かった。
いや、正確には白ではない。
さまざまな色の光が飛び交うような、流れるような、そんな空間だった。

「…?」

あたしは、今度こそはっきりと、自分の意思でそこを見ていた。
そして思い出す。
少し前にも、同じ場所に来た―――あくまで感覚の話だ―――ことがあったことを。

「ここ…って…。」

ほとんど見覚えは無い場所。
けれど、何故かひとつだけ、その場所の名としてふさわしいものに思い当たって、あたしは声を上げていた。
あたしの意思が伝わったかのように、ゆらりと空気が歪み、だれかの姿が浮かびあがる。

「…そう、ここはライフストリーム。命の巡る場所だ。」

低く静かな声。
銀色の髪、魔晄の光を帯びた、翠の双眸。
黒に身を包んだその人の名前は。

「セフィロス…?」

あたしが名前を言い当てたのが意外だったのか、英雄と呼ばれた―――否、今でもおそらく呼ばれている―――彼、セフィロスは僅かに目を見張ったようだった。
だがそれも一瞬のことで、瞬きした次には口元を少しつり上げた笑みを浮かべていた。
その表情は、想像していたセフィロスとは違って、なんというか、優しい笑い方で。
あたしは思わず呆然と、目の前の英雄を見てしまう。

「あまり時間がない。手短に話そう。」

セフィロスの言葉に、あたしは驚きながらも頷く。

「お前は、この星の人間ではないな。」

その、確認するような言葉に、間違いではないのであたしは再び頷く。

「だが、俺と同じような体を持っていたらしい。」
「え?」

おなじような、からだ、って?
混乱に追い討ちをかけられて、あたしは頭の上にハテナマークを撒き散らす。
気付いているだろうに、セフィロスはそんなあたしに後々わかる、とだけ答えて続けた。
時間がないっていうのは、どうやら本当のことらしい。
だってなんか、このセフィロス、面倒見よさそうだし。

「それで、こうして俺が話していられるわけだが。」
「どうして…?」

セフィロスはフ、と目元を緩めて微笑んだ。
何でこの人は、いちいち仕草が優しいんだろう。

「お前は俺とおなじもの。それ故に、こうしてライフストリームに溶け出している俺自身の精神がお前と接触できたのだろう。」
「…?」

よく、わからない。

「セフィロスの精神が、ライフストリームに溶け出している、って…?」

あたしの問いに、彼が答えようと口を開いたところで…不意に、彼の姿がブレた。
いや、ブレたのは彼だけじゃない。
この空間そのものが、歪み始めていた。
彼は小さく「時間切れか…」と呟くと、あたしの頭を軽く撫でた。

その、しぐさは。

「あのときの…―――」

呟いたあたしに、彼は少しだけ微笑んだ。

「…また会おう、異界の娘よ。」









そうして、あたしの意識は暗転し、次には光で目が覚めた。









「…ぇ…―――?」

あたしは少し、呆然と目を開けたまま固まった。
隣にはクラウド。
その奥にはザックスが、珍しく熟睡しているようであたしの起きた気配にも起きる様子はない。
ゆめ、だったんだろうか?
そう思うと同時に、そんなはずはない、とすぐさま心が否定した。
そうして、すとん、と理解する部分がある。

「あのひと、だったんだ…―――」

あたしがとことんへこんだあのときに、あたしを浮上させてくれたのは。
間違いなく、あの不器用な優しい手だったのだ。
まだあの温かな感触が残っているような気がして、あたしは自分の頭に右手を上げてみる。
もちろん、そこにはもうあの感触はないのだけれど、心が温かくなった気がして、あたしは口元に笑みが浮かぶのを感じていた。

夜が明けようとしている。

「うん、大丈夫、頑張れる。」

あたしは呟いて、空を見上げた。

もうまもなく上がってくる太陽の光が空に反射して、綺麗な朝焼けが出来上がっている。
あたしはそれに目を細めて、零れた吐息に乗せて、呟いた。

「―――また、会おう。」

それは、ただの独り言。ただの言葉。
けれども、あたしはそれがきっと現実になるであろうことを、確かに感じていた。











というわけで、ザックス後悔&セフィロス接触編、でした。
あっさり名前出しちゃって良いのかなー?とは思ったのですが…。
こっちのセフィロスはなんかこんな感じです。
なんかやたら優しいお兄ちゃんっぽいですね(笑)過保護だなーセフィロス。
主人公がどんどん神経太くなっていっているのは気のせい…じゃないですよね…。
書いている本人が一番びっくりしてます。順応性高いよ主人公!
An encounter〜は、ひとまずここで終了です。
最後のほうなんてBC関係ねぇ!という状態ではありましたが(苦笑)
ここまでお付き合い下さり、有難う御座いましたw
次はFF7本編の頃になるかと思います。

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