「―――来たわ。」



空がねじれて、少女を抱き抱えた少年が現れる。

少年は魔女を視界に収めると、口を開いた。



「あなたが…次元の魔女ですか!?」

「そうとも、呼ばれているわ。」



少年は一度、気遣わしげに少女を見遣り、悲痛な声で叫んだ。



「さくらを、さくらを助けて下さい!!」










Story by which you touched - 廻り始める運命の輪 -










「あら、ちゃんおはよう。」

「おはようございますー」



あれからなんとか落ち着いたあたしが居間に向かうと、笙悟母がにっこりと挨拶をしてくれた。

そのほんわかな笑顔に癒されながら(これで30代後半なんて嘘だ)、きょろきょろと周りを見る。



「あれ?あの、もしかしてあたし最後でしたか?」



内心冷や汗を垂らしながらたずねると、笙悟母は笑みを浮かべて首を降った。



「まだ笙悟が起きてないのよ。悪いんだけど、ちゃんが起こしてきてくれないかしら?」

「えっ!?」



あたしなんかに起こさせたら息子さんの身が危ないですよ!?

とはさすがに言えず、あたしは大人しく笙悟の部屋へと足を向けた。

コンコン、とノックをしてみるけど、中からは物音ひとつしない。

やっぱりまだ眠ってるのかーと思いつつ、そっとドアを開いて足を踏み入れた。



はっ!?

よく考えたら年頃の男の部屋に入って良かったんだろうか…?



「…ま、いっか。」



気楽に呟いて、笙悟のベッドに近付く。



「笙悟ーしょーごくーん、朝だよー起きなさーい」



呼び掛けてみるが、無反応。

仕方ないので肩に手を掛けて軽く揺さぶることにする。



「もしもーし、笙悟くーん、朝ですよー」



ゆさゆさ。

……。

ゆさゆさ。

………。



「…てゆーか寝すぎじゃないんですかアナタ。」



あんまりにも何の反応もないので思わず突っ込んでしまう。

うむむ…夜寝るのが遅かったんだろーか?

夜更かし?

夜更かしはお肌に悪いよー。

とかなんとか、ぶつぶつ呟きつつ、笙悟の顔を覗き込む。



(…眼福とは、まさにこのことね…。)



じいーっと笙悟の寝顔を見つめつつ、腐女子炸裂中。

いや、でもだって!

あのいつもどっかしら格好良い系の笙悟が、寝顔は実はちょっとあどけなくて可愛らしいなんて!!



「あーあ、気持ち良さそうに寝ちゃって…お姉さん、襲っちゃうぞ?」



お姉さん、とは言っても笙悟の方が年上なのだが。

しかし、このまま放置しておくわけにもいかない。

笙悟母から起こしてくるように頼まれたのだから、起こさねば。

さっきよりも強く揺さぶる。



「笙悟、朝だよ!起きろー!」

「…ん…?」



うっわああああ!!(///)



なんつー色っぽい声を出しやがりますかこの人は!!



思わず硬直するあたしに、笙悟は寝ぼけているのかじいーっとあたしを見つめた後、不意に手を掴んでベッドの中に引きずり込んだ。



「うわっ!?」



どふっ



ベッドに落とされて、思わず声を上げる。

なにこの王道展開!?

いや、いや待ておかしいだろ!



「ちょ、ちょっと笙悟!」

「…?」



あたしを腕の中に引き寄せて、すり擦り寄るようにした笙悟は完全に寝ぼけている。

…ていうかそうじゃなきゃいきなり人をベッドに連れ込んだりしないでしょ!?

まだ眠いのか、ぼうっとした目であたしを見ている…のだか半分寝ているのだかよく判らない…笙悟は、あたしが何も言わないので眠そうな目をもう一度閉じた。



(うっわぁ睫毛ながーい…さすが美形さん…)



って違うだろあたし!!!

思わずぼけーっと笙悟を眺めてしまった自分にツッコミを入れて、どうしたものかと考える。

つーか、無防備すぎですよリーダー…。(遠目)

アニメとか漫画見てる分にはしっかりしてそうだったんだけどなー…。

いやまあ、新たな一面を発見できてあたしとしても大変萌えるわよ?(萌えるとか言うな)

問題はひとつ。

この、笙悟に抱きしめられている状態のことなのだ。

押しても引いても抜け出せない。

さすがに男と女の力の差はでかいらしい。

さて、すやすやと気持ち良さそうに寝ている笙悟くん?



「そろそろあたしも我慢の限界かなー、なんて…思うんだけど起きるつもりはないのかな?」



あたしの言葉にも、笙悟は既に夢の中。

やれやれ、とあたしはため息をついて、息を吸い込んだ。



「…あたしは受けじゃない!断固として攻めだーーーーー!!」



そう、あたしは愛でられるよりも愛でたいタイプ!

人の反応を見て楽しむ!

これこそあたしの本来の姿!!(嫌な姿だな)



「…ん…、……?」



あたしに大声で耳元で叫ばれたのにも関わらず、笙悟は今ようやく起きました、とでも言うような顔で目を開けた。

今度は寝ぼけていないようだ。



「起きた?」

「………あれ…?なんでが俺のベッドに…。」



どうやら全く覚えていないらしい。

あたしはそんな笙悟の姿にため息をひとつ返して、口を開いた。



「笙悟を起こしに来たら、急に腕引っ張られてベッドに引き摺り込まれたの。寝ぼけてて覚えてないみたいだけどね。」

「………うわ…悪ィ…。」



笙悟はようやく自覚してくれたのか、うわー、とか呟きながら顔を赤くする。

…うわ、可愛い。

どうも今日は笙悟の可愛い面ばっかり見つけているような気がする。

それはそれで美味しいが。



「いや、別にいいよ。それより、そろそろ離してくれる?早く行かないとご飯が…。」

「あ、あー…そうだな、悪かった。」



罰の悪そうな顔して、笙悟はようやくあたしを解放してくれた。

助かったというべきか、ごちそうさまというべきか。

そんなアホな事を考えながら、ベッドから出て、部屋の出口で振り返る。



「先行ってるよ?もう一回寝るのとかナシね。」

「ああ、さすがにな。着替えたらすぐ行くから先行っててくれ。」

「ん、わかった。」



うん、まあ。

なにはともあれ。

ゴチソウサマでした?




















「えーと…」



さて、どうしたものか。




あれからご飯を食べて、笙悟はなにやら集まりがあるとかでそそくさと出て行ってしまった。

仲間がどうのって言ってたから、おそらくはチームのメンバーと集まっているのだろう。

あたしは不慣れながらも、お世話になっている恩返しの一部として浅黄酒店の手伝いをしていた。



ちゃん、悪いんだけど、これを配達してきて欲しいのよ。」

「あ、わかりましたー。」



そんな感じでちょっと配達に出かけることになって。

配達先はあの!王様と神官様…もとい、桃矢兄さんと雪兎さんがいらっしゃるお好み焼き屋さんだったのです。

ちょっとだけ話とかしてみたりしてうきうき気分で帰ろうとしていたら…いたら、ですねえ。

どうにもこう、見覚えのある人達がいらっしゃったと言いますか。

ええ、まあ。

笙悟の敵対チームのあの学ランぽいのを着た人達が、何処かに集まろうとしているところを目撃してしまったのです。

そして冒頭に戻る、と。



「…どうしよっかな。」



もしかしたら。

もしかしたら、だけれど。

今日が、その日なのかもしれない。



「…うん、行こう。」



あたしは一人頷いて、こっそりとあの橋へと足を向けたのだった。






















運命の輪が、ゆっくりと廻り始めた。

それに気付く者は、未だ太陽と魔女のみ…―――






















笙悟夢になりました、ハイ。
…お、おかしいな…朝のシーンは最初なかったんだけど…。
夢主と笙悟の関係は兄妹みたいなモンだったりします。
多分次回でようやく原作沿いに…なる、はず…!


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