「僕、斉藤正義と言います!皆さん随分珍しい格好で…もしかして外国の方ですか?」 「外国人ねぇ…ま、そんなとこかな。」 金髪の青年の返答に少年は違和感を覚えた様子も無く、ハッとしたように続けた。 「とにかく、ここは危険です、急いで逃げてください!」 「何がどうしたってんだよ!」 「早くしないと、始まるんです!」 「始まる?何が?」 その疑問はすぐに解消された。 ただ、黒髪の青年の言葉に答えたのは少年ではなく爆音だったが。 Story by which you touched - 出会う運命の路 - そういえば、巧断同士の真面目な戦闘(?)を見たのは初めてなんだっけ。 以前プリメーラに仕掛けられた時以来、巧断に接する機会がなかったような。 そんなことを思いながら、あたしは笙悟達の戦闘、及び小狼達の動向、を見ていた。 「…うひゃー…派手だなー…。」 何が派手って。 漫画とかアニメとかでは普通の演出だった爆発だとか。 ついでに言えば、小狼達の姿も派手と言えば派手かも。 普通にコスプレに見える。 あたしが今居るのは、小狼達よりももっと後ろのバスの上、だった。 バスというか、元バス? 結構近くに居るので、黒鋼やファイにはバレてるだろう。 多分、小狼にも。 と、一際大きい爆発が起こって、羽が橋の方に飛んで行ってしまう。 「あ…ッ!」 わかってはいたのだが、あたしは思わず身を乗り出し…―――落ちた。 「うわひゃあっ!?」 相変わらず色気の欠片もない悲鳴だ、とかなんとかちょっとばかし悲しくなる。 地面に落ちることを想定して、ぎゅうっと目を瞑って衝撃に備えた。 ぼふっ 「…?」 地面にぶつかったにしてはやけに柔らかい感覚に、恐る恐る目を開けてみる。 目に入ったのは綺麗な金色の髪に、白い肌。 ブラウン管の向こうで、漫画の中で、見たことのある綺麗な顔。 「…へ…?」 「大丈夫〜?」 驚いて間抜けな声を上げたあたしに、彼はへにゃ、と笑って声を掛ける。 え、えぇええとぉ!? 「あれ?どっか怪我でもした?」 硬直してるあたしの様子に心配になったのか、彼は少しばかり眉を寄せた。 「うえ!?あ、いや、大丈夫ですっ!」 慌ててあたしはそう答えて、彼に地面に下ろしてもらう。 つまるところ、あたしはその…―――(推定)ファイに、お姫様抱っことやらをされた、らしい。 ひー!思い出すだけで顔から火が出る!! あたしは顔が赤くなっているのを自覚して頬に手をあてながら、(推定)ファイに向き直る。 「えっと…どうも、ありがとうございます。」 「ううん、いいよ〜。でもあんなトコで何してたの?」 「あー、あそこの人あたしの知り合いなんで。何してるのかなーって思って、ちょっと離れた場所から見てたんです。」 あそこの人、というところで笙悟を指差せば、正義君がえっ、と驚いた声を上げる。 「笙悟さんのお知り合いの人ですか!?」 「え、あ、うん、まあ。」 正義君、ホントに笙悟達のファンなんだなーとか、その熱意を見て思う。 物語通りに行けば彼も笙悟のチームに入るんだよね、確か。 ふと、橋の方に視線を戻せば、炎の狼が現れていた。 「…炎の、狼…。」 あたしの呟きが聴こえたのか、ファイ達も橋に視線を戻した。 いつのまにやら学ランの人達を小狼は撃退していたらしく、笙悟が至極楽しそうに笑みを浮かべている。 そうして、しゃがんでいた体勢から立ち上がり、口を開く。 「どうやらお前の巧断も特級らしいな。俺は浅黄笙悟だ。お前は?」 笙悟の楽しそうな声音に、小狼は凛とした声で答えた。 「小狼。」 「お前のは炎を操る巧断か。だが、俺の巧断は…」 笙悟が手を上げると、渦巻くように水が現れ、大きなエイの姿をとる。 「そっちは炎でこっちは水!こいつぁ面白れぇ勝負になりそうだぜ。」 笙悟は楽しげに、小狼は凛として、そのままお互いの視線が交差する。 あーあ、楽しそうにしちゃって…。 やれやれ、という風にため息をついて、彼らと一緒に居る存在のことを思い出す。 確か、モコナ=モドキが一緒に居るはず。 モコナ=モドキならば、侑子さんにも連絡を取れるんだから、あたしがこの世界に来た理由を教えてもらえるかも…。 そう思って、きょろ、と辺りを見渡すと、どうやらこちらを見ていたらしいファイと目が合った。 「?」 疑問符を浮かべて首をかしげ、それから試しに微笑んでみる。 にこり。 ファイはちょっとだけ目を丸くして、それからすぐに微笑み返してくれた。 ほにゃ。 可愛いなあ、癒されるなあ。 「何やってんだ、てめぇら…。」 どことなくほのぼのしていたあたし達に掛かった心底怪訝そうな黒鋼の声に、あたしとファイは彼の方を見た。 黒鋼の傍にはいつのまにか小狼がいて、既に羽は戻った後だった。 …ファイの台詞とか、抜かしちゃったんだ…! うわお、やばくないのかな、大丈夫なのかな…。 そんなことを思いながらサクラと小狼を見ていたら、ファイに声を掛けられた。 「っと…彼、行っちゃったみたいだけど、いいの?」 「え?あらら…。」 ファイの言葉に先ほどまで笙悟達の居た場所を見ればもぬけの殻。 警察と思しき人達が数人が彼らを追いかけていった様子だけ見れた。 「んー、ま、帰れば会えますから。怪我もないようですし。」 「ふうん?」 あー、くそ。 気に入ったぜ、お前のこと。って台詞を生で聞きたかったのにー! ちょっと悔しいが、聞き逃してしまったことはもう仕方ない。 あたしはひとつため息をつく。 「んじゃ、あたしはこれで。」 「え?行っちゃうの?」 「ええ、早く帰らないと夕飯に間に合いませんし。」 「そっかー。俺はファイっていうんだ。君は?」 さらっと、言われた言葉に一瞬だけ驚いて目を丸くする。 おお、自己紹介されちゃったよ。 「あたしはって言います。それじゃ…多分、すぐ会うことになるとは思いますけど。」 「え?それって、どういう…―――」 訝しげに声を上げた小狼に、にこりと微笑んで、あたしは踵を返した。 今日のところはそろそろ帰らないと、本当にまずい。 元々配達で出てきたわけだし。 そう思って歩き出して…ふと、思ったことがあって、笑んだまま彼らを振り返った。 「その格好、この国じゃコスプレですから変えた方がいいですよー!」 あ。コスプレってなんだかわかんないか。 聞いた彼らが「こすぷれ?」と疑問符を浮かべているのを見て、そう思う。 でも、そのすぐ傍で正義君が「コスプレっていうのはですね…」とか説明してるのを見て、まあいいかとか思った。 黒鋼辺りが怒りそうだなーとか、ちょっとだけ思ったのは、内緒だ。 あたしはくすくすと笑いながら、帰宅の途についたのだった。 浅黄家についてから、やっぱり心配してくれてたらしい笙悟や笙悟母から怒られた。 う、嬉しいような、複雑なような…。 ファイ夢…かな? 乙女の夢というかロマンな姫抱っこをしてもらいましたー。 お陰で他の人の影が薄いこと薄いこと…!! 正義君がコスプレ知ってるかどうかは定かではありません(笑) Back Next |