「お昼代、入ってるさかい、4人で仲良う食べや。」

「ありがとうございます。」



にっこり言った青年と、頷いた少年に、黒髪の青年が反論する。



「って、なんでそのガキに渡すんだよ。」

「一番しっかりしてそうやからや。」

「どういう意味だよ?」

「わーい、あはははは!」



快晴の空に、笑い声が響いた。










Story by which you touched - 魔女との接触 -










皆さんお元気ですかー?

あたしはそれなりに元気です。

と、まあ妙な挨拶はおいといて。

あたしは今、昨日ファイ達に出会ったあの橋に来ております。

なんでかって?

そりゃ、もちろんココに彼らが来るはずだからですよ。



「…具体的な時間、いつだったかなー…。」



ぽつり、と呟く。

何気に朝の9時くらいから来ているんだけれど、未だに彼らは姿を現さない。

いい加減飽きてきたなあ、なんて思っていたところで、あたしの視界に彼らの姿が映った。



「あ、貴方は…」

「おはよう、てか今はもうこんにちは、かな?」



驚いたようにこちらを見てくる小狼に笑顔で返す。

素直で可愛いなあ、小狼は。



「昨日ぶりだね、ちゃん。」

「あはー、そうですね、ファイさん。」



にこにこにっこり。

どうでも良いんだけど、ファイのこの笑顔ってたまに擬似くさいよね…。

いや、警戒されてるというかなんというか。



「てめぇ、なんで此処に?」



あたしとファイが笑顔合戦をしていたところに、黒鋼が疑問をはさむ。

黒鋼の言葉にあたしは彼を見て、それから彼の頭の上に居るモコナ=モドキを見て。



「…っ」



噴き出した。



「てめ…ッ!!」



何故あたしが笑い出したのかという原因に思い至ったのか、黒鋼が声を荒げる。

小狼は訳がわからずきょとんとしているし、ファイはファイでにこにこしながらあたし達を見ている。



「ご、ごめ…っだ、だってあんまり、に、似合わな…っぶふっあはははははは!!」

「だぁー!黙れ!!俺だって好き好んでこんなモン持ってるわけじゃねえ!」

「モコナ物じゃない!」

「あは、あはははははは!ひー、苦しい…っ」



笑いすぎて腹筋が痛くなりそうだわ。

ひとしきり笑った後に、あたしはもう一度黒鋼の方を見た。

笑いそうで口元がひきつるけど、気にしない気にしない。



「あたしが用があるのはこの子です。えーと、モコナ?」

「モコナ=モドキ!モコナって呼んでね!」

「あたしはだよ。」



あたしの言葉に、モコナは可愛らしく返事を返してくれた。

黒鋼の頭の上で。

また笑いの発作が起こりそうになったが、黒鋼に睨まれてなんとか押しとどめる。



「ねえ、モコナ。侑子さんに連絡は取れる?」

「侑子に?は侑子のお友達?」



きょとん、とモコナがあたしに返答を返す。

友達、ではないと思う。



「友達、ではないかなあ。侑子さんにいきなりこの世界に放り込まれちゃって。」

「この世界に、ということは、貴方も別の世界の…?」

「うんまあ、そんなトコ。え、っと…」



小狼、と呼びかけそうになって、慌てて言葉を濁す。

危ない危ない。

ファイとモコナ以外は自己紹介されてなかったよ!



「小狼です。こっちは黒鋼さん。」

「丁寧にありがと。モコナを連れてるってことは、小狼くん達も侑子さんに送られてきたんでしょ?」

「ええ、そうです。」



きちんと丁寧語で話してくれる小狼。

嬉しいけどちょっと複雑だわ…。

年齢的に、あたしと変わらないはずだし。



「えっと…あたしに敬語使わなくていいよ?多分、同じくらいだし。」

「え、でも…」

「いいからいいから!あたしも小狼、って呼んで良いかな?」

「あ、はい…じゃなくて、うん。」



言い直してくれた小狼に、にっこりと微笑みかける。

それに対して小狼はちょっと照れたように頬を赤らめながらも微笑み返してくれた。

あー可愛いーw

っと、いかんいかん。

元々の目的を忘れて和みそうになった自分にツッコミを入れて、モコナに向き直る。



「それで…連絡は取れるの?」

「取れるよー。、モコナの額に触ってー?」



額?と内心首を傾げつつも、その言葉に従う為に黒鋼の頭から降りたモコナを受け取る。

映写機みたいなのは使わないのか、と思いながら、モコナの額に手を触れた。



瞬間。



パァッっと光が溢れ、その眩しさに思わず目を瞑ったあたしは…―――

次に目を開いた時、全く違う場所に居た。




















「ここ、って…―――」



ふわふわした、真っ白い空間。

ここは確か、最初に彼女に会った場所。



「侑子さん?」

「はぁーい?」

「うおわっ!?」



試しに呼びかけた声に、彼女の明るい声が返ってきて驚く。

そんなあたしに侑子さんはけらけらと笑いながら近付いてきた。



「お久しぶり、ちゃん。元気そうで何よりだわ。」

「お久しぶりです、侑子さん。そちらも元気そうで…ってそうじゃなくて!」



流されそうになった自分に再びツッコミをズビシッと入れ、侑子さんを見る。



「なんであたしの記憶勝手に取っちゃったんですか!?」

「あら、勝手に、じゃないわよ?」

「へ?」



侑子さんの意外な言葉に、あたしは思わず間抜けな声を上げる。

どういうこと?

その疑問が表情に出ていたのだろう、侑子さんは続ける。



「私を呼び出したことも、貴方から記憶を取った事も、貴方は了承してるわよ?ちゃん。」

「ぇ、は、はぁああああ??」



了承してる、って…そんなバカな!



「あたし、同意した記憶、ないんですけど…。」



あたしの言葉に、侑子さんは頷く。



「まあ、それはそうよねえ。だって、ちゃん、貴方ってば無意識下で了承しちゃってたんだもの。」

「…は?」



無意識下?

むいしきかぁあああああ!?



「な、なんですかそれ!?」

「貴方の心の奥底の願い、私はそれを叶えただけに過ぎないわ。」

「あたしの…心の奥底の願い…?」



なにそれ。

そんなの、あたし知らない。

そう、突っぱねる事は簡単だけど、それじゃどうにもならないってことくらい、あたしにだってわかる。

混乱するあたしに、侑子さんはいたわるような笑みを向ける。



「大丈夫よ。時が来ればわかるわ。きっと、全て。」

「時が…?」

「だからそれまで、…そうね、小狼くん達と一緒に行動してみたらどうかしら?」

「小狼達と?」



きょとん、としたあたしに、侑子さんは頷く。



「もちろん、今貴方の居る世界に居ても構わないけれど…どうする?」

「…行きます。」



意図せずとも、口は勝手に言葉を紡いでいた。

こうなったらもう、開き直るしかないじゃない?

その"時"ってのが来るまで、あたしは異世界を満喫してやろうじゃないか、と思い切り開き直った。

それに、小狼達も心配だしね。



「そう…貴方が一緒なら、安心できるわ。」

「え?どういう意味ですか、それ…。」



というかあたしがそこまで侑子さんに信用(?)されてる理由がさっぱり判らない。

だけど、侑子さんはあたしの言葉に微笑んだだけだった。

それの意味するところ…―――今は話せない、といったところだろうか?



「さ、そろそろ戻ると良いわ。時間は経っていないはずだから。」

「あ…はい。じゃあ、また。」

「ええ、また、ね?」



再会の挨拶をして、あたしは自然に目を閉じた。




















そうして次に目を開けた時、あたしは予想の通りモコナの額に触れた状態で小狼達と一緒に居た。



ー、侑子と連絡取れたぁ?」

「うん、取れたよ。ありがとうね、モコナ。」



そう言いながらモコナに笑いかけると、モコナは嬉しそうにしていた。

さて、どうやって小狼達に行動を共にする許可を貰おうか。

そう考えたけど、特に何の策も浮かばなかったので、直球でいくことにした。



「えーと、小狼?」

「?」

「侑子さん…ああ、次元の魔女ね?があたしも小狼達と行けって。一緒に行動しても構わない?」



あたしの言葉に小狼は驚いたような顔をして、それからファイと黒鋼の方を見て、もう一度あたしを見た。

小動物みたいでちょっと可愛い。



「え、と…俺は別に構わない、よ。」

「ありがと。ファイさん達は?」

「んー、危ないこと一杯あるけど、ちゃん自身が決めたんなら俺は構わないよ〜」

「…足手まといになるんじゃねえぞ。」



小狼とファイは了承、黒鋼は…微妙だけどまあ、了承という意味だろう。

やっぱ次元の魔女の言葉はすごいなーとか思いつつ、あたしはにっこりと笑いかけた。



「んじゃ、これからよろしくね!」






















拝啓兄上様。

あたしは異世界での旅の仲間と出会いました。

そちらはいかがお過ごしでしょうか―――?






















というわけで、ようやく小狼達との合流でございます。
ファイとの笑顔合戦の勝敗はいかに(笑)


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