「ここは…―――?」 呟いた少年に、応えたのは魔女。 「あら、珍しいお客さんね。」 「…誰だ?」 「人に名前を聞くのなら、自分から名乗りなさいな。」 貴方の名前は?と、魔女に訊ねられた少年は、魔女に警戒しながらも立ち上がった。 その動作に、少年の一部分だけ伸びた髪がふわりと揺れる。 目の前に居る魔女を見据えて、少年は名乗りを上げた。 「。俺は、だ。」 それは、過ぎ去ったある日の出来事。 Story by which you touched - 過ぎ去った日と現在 - 「っあーーーくそ!」 どうやら不測の事態に陥ったらしい妹のことを思って、青年は苛立ったような声を上げた。 不機嫌な表情を隠すことなく、青年は妹の部屋から自分の部屋へと足を向ける。 青年の動きに、彼の一部分だけ伸びた髪の毛が、背中で揺れた。 青年の名は。 過ぎ去った日に、魔女と対話をした人物である。 自分の部屋に着くと、はクローゼットを開いて、長い棒のようなものに装飾のついたものを取り出した。 現代の中に異彩を放つ、ファンタジーの雰囲気満点のそれは、魔術師が持つような"杖"。 身の丈ほどのその杖を、はどこか呆れたような視線で見つめた。 「本当に使う日が来るとはな…。」 そう、呟いて。 は目を閉じて一振り、杖を振るった。 光が溢れる。 どこか柔らかな気配を持つ、光。 が光の止む頃に閉じていた目を開けると、現代の服からどこかファンタジー風な和と洋の融合した神官服のようなものに服装が変わっていた。 が動くたびに、彼の両肩に掛かった装飾がシャラ、と音を立てる。 「さて、行きますかね。」 自分に言い聞かせるかのように呟くと、意識を集中させた。 紡ぐ言葉は、ただ一言。 「次元の魔女の元へ。」 「ん〜〜〜〜〜〜〜〜」 「どうだい?」 「だめ、全然感じなーい」 あれからあたしは、羽根を捜していると言った小狼達と共に橋の上でのんびりしていた。 正確には、モコナが波動を関知するとかどうとかいうことで、やることがないからのんびりしているのだが。 「羽根ね〜…」 「は見なかった?」 「うーん、見てないなあ。」 訊ねてきた小狼にそう答え、あたしはモコナを見た。 嘘は言っていない。 あたし自身はまだ羽根を見てないし。 正義くんが持っているっていうのは知ってるけれど、教えるわけにはいかない。 どうして知ってるんだ、って聞かれたら誤魔化しきれる自信ないし。 「昨日は感じた羽根の波動を今日は感じないって、どういうことなんだろうねえ?」 誰にとも無く言ったファイは、こちらの方を見る。 「黒たんはどう思う?」 「…ぶっ!」 「妙な呼び方するんじゃねえ!つーかてめぇも笑うな!!」 一応アニメも漫画も見ているあたしとしては、このやり取りは知っていたことだけど。 でも、実際目の前でやられると笑いがこみ上げてくる…! 「だ、だって、黒たん…その顔で黒たんって…!!」 嗚呼どうしてだろう、あたしの中で黒鋼がどんどんいじられキャラになってきている気がする…。 「かわいーよねぇ?」 「うんうん、可愛い可愛い!」 「でしょー?ほら黒りん、ちゃんも可愛いってさ〜」 ほにゃーっとした微笑みのままファイは黒鋼に言う。 だ、だめだこの人達笑える…!! 見た目が美形だから余計なんだろうか。 爆笑しているあたしを見て、へにゃりと笑っているファイを見て、黒鋼はキレた。 「だぁーっ!うるせぇぞてめえら!!」 「黒サマこわーい。」 むしろ貴方が可愛過ぎますよファイさん…!! あたしは心の中でだけそう叫び、やや苦笑している小狼に目を向けた。 うむ、こっちの方が大人だ。 そう思い、いや待てよ、と考える。 小狼が大人なんじゃなくって、単に黒鋼が子供なだけ? (そ、そんなことないよね…。) ちょっとだけ冷や汗を流しながら考えるのは止めようと思う。 このままじゃあたしの中での黒鋼の位置が…威厳が…ッ!! 「あっ、ちょ、黒鋼さん!?」 「?」 不意に聞こえた小狼の声に、慌てて自我を引き戻す。 危ない危ない、自分の世界に逝っちゃってたよ…。 小狼達の方を見れば、先ほどまでファイと口論して(というかからかわれて)いた黒鋼の姿がなくなっていた。 「あれ?黒鋼さんは?」 「なぁんか急に走ってっちゃったよ〜」 なんだろね〜?と全く心配する様子のない声で言うファイに、小狼は困ったような表情を浮かべる。 ここで黒鋼が居なくなったってことは、アニメ展開ってことかな? 「黒鋼さんって、ここらへんのこと知らないんだよね?そしたら探さなきゃまずくない?」 「あ、そうだね…。」 「それじゃあ、ひとまず手分けして探そうか。」 「ですね。えーと、じゃあ、30分後にまた此処で待ち合わせってことで。」 あたしの言葉に二人(とモコナ)は頷いて、それぞれ違う方向に足を向けたのだった。 「えーと、たしか商店街っぽかったような…。」 二人と一匹と別れてから、あたしは黒鋼があの学ランの人達に絡まれる場所を探しに商店街へと足を向けていた。 俺が仕えるのは生涯ただ一人だ、の台詞をどうせなら生で見たいし! そんな不純な動機ながらも商店街へと着実に歩いていたあたしはどうやらナイスタイミングな時に着いたらしいことに気付いた。 なぜなら、アーケードがあたしの視界に入ってきたその時、アーケード街の方向から爆音が聞こえてきたからだ。 「ナイスタイミーング!」 逃げてくる人達に逆らいながら、あたしはうきうきとアーケード街に入っていった。 爆音の方向へ歩いていけば、そこには瓦礫と学ランの団体さんと、そして黒鋼。 黒鋼の巧断である水龍…もとい、セレスが具現化したシーンに鉢合わせた。 慌てふためく学ランの団体さんを視界の端っこに収めながら、あたしは巻き込まれないようにこそりと建物の影に隠れた。 セレスの具現化した剣を構え、黒鋼は不敵に笑った。 そして綺麗な動作で、技を放つ。 不謹慎ながら、思わず格好良いな畜生、と思ってしまう。 (うーん、美形ってだけでこんだけ眼福だと幸せ過ぎて困るわね。) 唯一の女の子のサクラ姫もまた美少女だし。 どう考えてもあたしだけ見劣りしてる…!! あああああでもあたしは幸せだからそれはそれでいいわっ! 「…おい。」 でもなあ、やっぱハタから見たらあたしだけ毛色が違うよなあ…。 くうっせめてあたしがもうちょっと可愛かったり綺麗だったりすれば…! 「てめえ、聞いてんのか!?」 「うえっ!?」 急に怒鳴られて、びっくりして自分の世界から現実世界へ戻ってくる。 って、あたしってばまた自分の世界にトリップしちゃってたのね…。 やや呆れながらも、怒鳴った人物を見る、と…。 「あれ?黒鋼…さん。」 あぶなっうっかり呼び捨てにしそうになった…。 内心慌てながら、あたしは黒鋼に苦笑いを返す。 黒鋼は胡散臭そうにあたしを見た後(失礼な)、ため息をついた。 「てめえ、なんで此処に居る?」 「なんで、って。黒鋼さんを探しに来ただけですよ。」 団体行動を乱したらダメですよー、とかふざけて言ってみる。 「はあ?俺を探しに来ただあ?」 てっきりまた怒るかと思ったら、違う部分が気になったようだ。 あたしは黒鋼に頷き、探すに至った経緯…というほどのことでもないが、経緯を話した。 で、どうしていきなり走り出したのか、っていう質問も一応投げかけては見たけれど。 「てめえには関係ねえ。」 の一言でバッサリ切られてしまいましたとさ。 うう、畜生。 そのうち一矢報いてやる。 って、どうにも黒鋼相手だと好戦的になる自分の思考回路はとりあえず置いといて。 なんだかあたしを見ている黒鋼を見返す。 「なんですか?」 「てめえ、さっき俺のこと呼び捨てにしようとしたよな。」 「な、なんのことですか?気のせいじゃないですかねー。」 内心ギクッとしながらもごまかそうとする。 が、黒鋼はやや呆れた視線をあたしに注いだ。 何もそんな目で見なくても…とあたしはハラハラと心の中で涙を流す。 「別に怒ったりしねえよ。敬語使うのはてめえの素じゃねえんだろ?だったら普通の話し方にしろ。」 「え?」 あたしは思わず黒鋼を見上げた。 あたしの視線に、黒鋼は居心地が悪そうな顔をする。 「てめえ本来の話し方で喋れっつったんだよ。真綿でくるむみたいなあの話し方はやめろ。気持ち悪い。」 「一言多いっつーの。わかったわよ。後でやっぱ止めろって言うのはナシだからね。」 あたしは一言多い黒鋼に半眼になりつつもそう言った。 まあ、よくよく考えてみればこれはあたし的にも楽だし、願ったり叶ったりだ。 そう自己完結したあたしは、黒鋼に向かってにっこりと笑って見せた。 外向けの控えめな笑みじゃなく、何処か挑戦的な笑み。 「ま、同じ日本人同士、仲良くしましょーね。」 「ハッ、てめえ次第だな。」 そう言いながらも、黒鋼は口元に笑みを浮かべて返してくれた。 これで一歩、黒鋼とは仲良くなれたかな? よーし、次はファイだ! あたしは黒鋼と歩きながら、そんなことを考えていたのだった。 当初の目的を達成していないことに気付いたのは浅葱家に帰宅した頃だった。 ああ…あたしの萌えが…!(黙れ) 久々に兄上登場。トンデモ人間ですみません…。 そして黒鋼と仲良くなってみました?(何故疑問系?) Back Next |