ゆさゆさ。



「おーい、起きろー」



軽く揺さぶられて、控えめな声があたしを呼んでいる。

まだ、眠いのに…。

あたしは覚醒へと導かれていく意識に眉をひそめる。



「起・き・ろ!いつまで寝てるんだよ?」



耳に心地良い、低い男の声。

お兄ちゃん?いや、でも違う…そんな聞き慣れた声じゃなくって…。

もぞもぞ動くあたしに、その人は呆れたような笑み混じりのため息をついて…。



ギシ…ッ



、起きろよ…?」



耳元で、妙に色っぽい声で言ってくれやがりました。










Story by which you touched - 姫の目覚め -










「っうにゃああああああああ!?」



あたしは寝ぼけていた意識を完全に覚醒させて、ベッドから上半身を起こした。

心臓がばっくんばっくん言っている。

ていうか、え!?今の、今の何、何、何が起こった…!?



「おー、起きた起きた。」

「起きた起きた、って…な、ななななな何をしてくれやがりますかアナタはーーーっ!?」



目の前であははとか笑っている笙悟に叫ぶ。

今絶対顔赤い!うわ、恥ずかしい!



「いや、中々起きないもんだからさ。」

「…って、笙悟があたしより先に起きてる…!?」



にこりと…いや、にやりと?相変わらず爽やかに笑って言った笙悟を見て、はた、とあたしは気付いた。

まだほんの数日だけれど、確実に笙悟は朝に弱い。

だって、ほとんどあたしが起こしに行っていたんだし。



「何かあったの?」

の中での俺の認識がどんなもんか、わかったような気がするぜ…。」



ふ、とかなんとか、哀愁を背中に背負って笙悟がうなだれる。

しかしすぐに立ち直り、顔を上げた。



「何かあったの?は、俺の台詞だっての。もうすぐ昼だぜ?夜更かしでもしてたのか?」

「はい…?」



昼?

今、この美青年は何て言いました?

昼?HIRU?もうすぐお昼ですってーーーーー!?



「えっ嘘!うわあ、ホントだ…。」



あたしは慌てて目覚まし時計を見て、時間を確認する。

止めた記憶なんかないけれど、一応目覚ましは鳴っていて、あたしはそれを止めたっぽかった。

無意識って怖いわ…。



「うーわー情けない…。って、笙悟早く起きてたならもっと早く起こしてくれても良かったじゃない!」

「いや、俺も今さっき起きたばっかりなんだよな。」

「なるほど…。」



つまり、いつもあたしが朝起こさない限り、笙悟はこの時間が普通の起床時間というところだろうか。

あ、でも案外笙悟母が起こしてくれてるのかも?



「昼メシまで1時間くらいだからな。」



そう言って、笙悟はあたしの(借りている)部屋を出て行った。

1時間ねー、どうしようかなあ。

そんなことを思いながらあたしは外を見て…少し散歩することにしたのだった。






















「…あれ?」



昨日の夜にイリューザーと行った公園に足を運んだところ、見たことのある…けれども、実際は初めて見る少女の姿を見つけて、あたしは目を丸くした。

やわらかそうな綺麗な薄茶色の髪に、翡翠色の瞳。

どこかふわふわした感じのその少女の名前は…―――さくら。



「この公園、だったんだ…?」



そう呟いて、しばし彼女の動向を見守る。

声を掛けるべきか、否か。

これからの展開を考えると、そのままにしておいたほうが、あの学ランの人も改心するし、良いんだろう。

そんなことを考えながらなんとなくさくらを目で追っていたら、ふと柄の悪い青年数人がさくらに近付いて行くのが見えた。



そんな展開、聞いてないって!



あたしは思わず自分の知っている展開にツッコミを入れて、慌てて絡まれ出した彼女の元へ走った。

話しかけられて訳が判らない顔をしているさくらを背後に庇う。



「あ、あの…?」

「誰だ、テメェは?」



ぎゃー!柄悪い人ってホント怖いって!

心の中で涙を流しながら、あたしは背後にいるさくらの右腕をぎゅっと握って…



「あたし達、これから大事な用があるの!悪いけど、あんた達に構ってる暇はないのよ!」



そう言い捨てて、彼らが反応を起こす前にさくらを連れて走り出した。

彼らが我に返った頃には、あたし達は人ごみの中。

そうそう見つけられるものじゃないってね。

…いやホント、ここが街中で助かったわ…。






















「あ、の…?」



ふわふわした雰囲気のまま、さくらはいぶかしげにあたしを見た。

それにどう答えたものか、と迷っていると、ふと視界の端に黒い服が見えた。



「あたしはっていうの。」

…さん?」



さくらは首をかしげながらも、何度か口の中で反芻して納得したらしい。

にこっとあたしに可愛らしい笑みを返してくれた。



さん。」

「うん、そうそう。、よ。」



発音が微妙にカタカナだけれど、まあ良しとしましょう。

それからさくらは自分を指差して、にっこりと笑った。



「さくら。」


「可愛い名前ね。」



あたしがそう言うと、さくらはまたしても非常に可愛らしい笑顔でにっこりと笑ってくれた。

かわいーなーお持ち帰りしたい…ハッ!いやいやいや…。

さくらの微笑みに思わず危険な思考に入りかけて、慌てて首を左右に振る。

さくらは訝しげな表情をしていたけれど、あたしがなんでもないよ、と言えば首を傾げてまたにっこり。



(か、かわいい…っ)



懐かれてる?懐かれてるよね?懐かれてるって思っていいのよね!?

うん、今あたし、さくらに懐かれてる…!!

幸せな気分に浸っていると、ふと誰かが近付いてきた。

それに気付いて、あたしは顔を上げる。

そこにいたのは、学ランの二人組。


「おじょーさん達、こんにちはー」

「こんにちはー」

「?」



猫撫で声で声を掛けられて、さくらはきょとんと首を傾げる。

目をぱちぱちと数度まばたきをしているさくらを見て、それから無反応のあたしを見て、彼らはひそひそと相談。

そうして、またこちらを見てくる。






















「一緒にお好み焼きでもどうですか!」



その素晴らしいまでの笑顔に…あたしが内心噴出しそうになったのは内緒だ。






















前半、笙悟夢…?
後半はさくら夢…かもしれません。
小狼よりも先にさくらと仲良くなってしまいました。許せ小狼。


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